TEIKAジャーナル

沖縄体験記

2011/09/30

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私は生命環境学部生命科学科生命コースに所属する4年の田中 駿也といいます。私は魚の生態や形態についてとても興味があり、水族館でボランティア活動を行うサークルやコイの性について研究する研究室に所属しています。このように,私たちの大学は自分が学びたいと強く志願することで学ぶための様々な機会を得られるところが良い点です。今回私は,私が所属する研究室の平井先生とともに,今年の2月に3泊4日で沖縄の琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底(せそこ)実験所を訪れ、様々な貴重な体験と経験を得ることができました。

 

 

・瀬底の海

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今回お世話になった琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設からは、歩いてすぐ浜辺に降りることができます。この浜辺は潮が引くと岩場が現れ多くの潮だまりを作ります。このような潮だまりは生物を観察するには絶好のスポットです。

 

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まず目についたのは大量のアカウニでした。私は東京都に住んでいるためよく東京湾や三浦半島の油壺へ趣味で生物を観察しに行きます。東京や三浦半島でよく見るウニの仲間はムラサキウニでしたが、この浜辺の潮だまりで私が確認したウニはすべてアカウニでした。手にのせると下部の管足で手に吸着してきて、とげをゆっくりと動かしています。とげは先端が丸くなっているため全く痛くありませんでした。

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次に多く見られたのがこのシカクナマコでした。触るとナメクジのように柔らかいかと思いきや表面の皮が思ったよりも厚く硬い感じがしました。ナマコの仲間は敵に襲われると防衛として海鼠腸という自分の内臓をばらまく習性があります。何度かこのシカクナマコに刺激を与えてみたのですが、結局実際に海鼠腸を出す姿を見ることはできませんでした。周囲の他のシカクナマコを観察していると、中には周囲に乾燥した海鼠腸らしきものが散乱していたため、もしかするともう海鼠腸を出し切ってしまっていたのかもしれません。他にもクロナマコやヒトデの仲間、クモヒトデの仲間やイソメ類といったものも観察できました。瀬底の潮だまりで発見した生物たちの多くは東京湾や三浦半島の油壺ではあまり見ないものばかりであり、図鑑では見たことがあるけれどもちゃんと生きた状態で目にするものは初めての生物が多かったです。今回潮の関係で観察が行えたのは夕方のみで夜間の観察が惜しくもできず残念でしたが、東京との生態系の差がはっきりと確認することができました。

 

・琉球大学熱帯生物圏研究センター共同利用研究会

 

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沖縄滞在の2日目と3日目には瀬底の商工会議所の2階で開かれた琉球大学熱帯生物圏研究センター共同利用研究会に参加させて頂きました。今回の研究会は主に動物の性決定機構がテーマとなっており、琉球大学や東京海洋大学、静岡県立大学、東京大学大学院、九州大学大学院といった様々な大学、大学院の先生をはじめ、基礎微生物研究所といった研究機関の先生も参加され、それぞれの先生方が行っている研究についての成果を発表し合いました。会場はスクリーンを中心に机が並べられた小さなホール内で各先生方が部屋に入ると各々が挨拶をし、談笑や世間話を始めています。当初このような研究会はもっと固い場であると考えていましたが、そんな固さなく、とても軽い和やかな空気が満ちていました。しかし、いざ研究会が始まるとそんな空気も一変してしまします。発表者が前に立ち、スライドを使い自分の研究を発表し始めると発表を聞く先生方の表情が変わります。会場の空気が固いというわけではありませんが、会場内に独特の重さが生まれます。

 

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私が所属する研究室の先生や先輩もその中で発表を行いました。普段私たちの研究室ではニシキゴイを使った研究を行っていますが、他の先生方ではヤイトハタやメダカ、オキナワベニハゼ、ニジマスなどの魚類、両生類のツチガエル、哺乳類など使う動物も様々であり、それぞれの研究結果には私たちが扱うニシキゴイとの類似点もあれば相違点もあります。そういった類似点や相違点を私が所属する研究室の研究結果と比較することはとても面白く、私が所属する研究室の研究に更なる興味が生まれます。また、各々の先生方の発表は専門用語などが難しく、研究方法と研究結果を理解することで精一杯であり、その研究結果から得られる考察について理解できず、自分自身の勉強不足を感じる場面も多々ありました。今回この研究会に参加させて頂いたことにより、私は新たに知識を得ることができたと共に自分の中にまだ足りなかったものを見直すことができました。

 

・美ら海水族館見学

 

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沖縄滞在の3日目の午後には美ら海水族館の見学会に参加させて頂きました。美ら海水族館は年間の来館者数が日本一であり、入口にモニュメントにもなっている世界最大の魚類であるジンベイザメで有名な水族館です。水族館が好きで水族ボランティアなども行っており、将来は水族館に関係がある仕事をしたいと思っている私ですが、様々な本やテレビなどでは美ら海水族館を見たことはありましたが、実際に生の美ら海水族館に来るのは初めての経験でした。このため、美ら海水族館の見学会は私にとってこの沖縄滞在期間の中で最も楽しみにしていたイベントでもありました。今回の見学会では美ら海水族館の裏側であるバックヤードも見学させて頂きました。

 

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バックヤードに入り、最初に目を奪われたのは様々な種類の魚たちと3匹のジンベイザメが泳ぐ美ら海水族館の一番の見どころともなっている大水槽でした。まず一番驚いたことは水槽内の水がとてもきれいなことです。ジンベイザメのような大きな生物はその大きさに比例して排泄物も多く出します。そのため水槽のように閉鎖された空間でジンベイザメのような大きな生物を飼育すると水質を維持することがなかなかできません。しかし美ら海水族館では直接海から水をくみ上げ常に水槽へと流すかけ流しを行っているため、これだけ大きな水槽であるにも関わらず他の水族館と比較できないほどきれいな水質を維持していました。他の国内の海でもここまできれいな水は得ることができません。まさに外の海もきれいな沖縄だからこそできる業です。また、他の水族館ではあまり見られませんがこの水槽の天井から搬入口にかけて巨大なレールとクレーンが引かれていました。ジンベイザメの搬入にも使用した生物を水槽まで迅速に運ぶための設備だそうです。その他にも小水槽が並ぶフロアの裏側や深海の生物たちを観察、捕獲する無人探査機、深海の生物たちを飼育するため水槽に圧力を加える巨大な装置などバックヤード施設の細部まで見学させて頂き、普段はあまり見ることのない水族館の裏側について学ぶことができました。裏側であるバックヤードを一周した後は表から美ら海水族館を見学させて頂きました。美ら海水族館は丘の斜面に建設されているため、入口が一番高い位置にあり、順路ごとに進んでいくとまるでどんどんと海の底へと向かっているかのようなイメージで生物たちが展示されています。そういった順路の工夫も来館者たちを水族館が持つ独特の「水の空間」に引き込むために必要不可欠なことです。水族館に入ると涼しく感じるのもこういった独特の「水の空間」を演出しているからであり、来館者を楽しませる一つのポイントにもなっています。下に降りるにつれて海の底へと続いていく順路はシンプルが故に水族館独特の空間に移入しやすい構造もこの美ら海水族館の魅力だと感じました。しかし、美ら海水族館で最も魅力的だったポイントはやはり裏側からも見せてもらったジンベイザメが泳ぐ大水槽です。

 

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この大水槽のジンベイザメたちはエサを食べるときにはその巨体を垂直に保ち、立ち泳ぎの状態で大量の水と共にエサを口へと吸いこみます。実はジンベイザメの立ち泳ぎは自然界では当たり前に行われている行動なのです。最近では動物園や水族館で「環境エンリッチメント」という言葉が有名です。環境エンリッチメントとは、動物園や水族館での飼育環境は、動物たちが長年かけて適応してきた本来の生息地の環境と比較すると、飼育面積や環境の変化が少ないものになってしまいます。そのため、動物たちの飼育環境に工夫を加えて、環境(environmental)を豊かで充実(enrich)したものにしようという試みを指します。美ら海水族館はジンベイザメの飼育環境を考え、自然界になるべく近い環境エンリッチメントを実現するため、深さ10m、幅35m、奥行き27mの巨大水槽を作成しまた。ジンベイザメを飼育している水族館は他にもありますが、美ら海水族館ほど巨大な水槽は他の水族館にはないため、このようなジンベイザメの自然の姿を見ることができるこの大水槽は美ら海水族館の大きな魅力となっています。このように、環境エンリッチメントの概念は飼育する動物たちをより長く飼育するために必要なことなのですが、実は来館者を引きつける魅力の一つにもなります。実際に自分の目で見ることによって年間日本一の来館者数を誇る美ら海水族館の凄さを実感することができました。

 

私はこの3泊4日の沖縄の旅で以上のような貴重な体験を得ることができました。沖縄でお世話になりました琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設やその他の大学、研究施設の先生や学生の方々、またこのような貴重な体験の場を用意して頂いた研究室の先生、本当にありがとうございました。

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