教育・研究

図書館だより 第14号 2000.10.25

[目次]


はじめの一歩は居候?!図書室から図書館への舞台裏



 創立10周年である。10年前の図書館の話をしようと思う。10年の歩みという堅苦しいものではなくて、もっと日常的な出来事のお話。 「そんなこともあったのかあ」程度の期待度で読んで頂けるとありがたい。図書館奥に多目的広場が出来てキャンパスの景観が一変した のは記憶に新しいが、1990年4月の開学当初、このキャンパスには本館棟と食堂と体育館しかなかった。実験研究棟と 図書館棟をこれから1年で建てるからしばし待てというわけで、1期生はほとんど工事現場の様な中で最初の1年を過ごしたのである。 

初年度の図書室:405教室にて 図書館は本館4階の405教室に仮設の状態だった(左写真)。当時は階段教室ではなく真っ平らのままで、扉を開けると右に事務スペース、 左が書架である。貸出カウンターは長机だった。蔵書は3万冊だったが、それでも狭い教室はそれだけでいっぱいで、 閲覧席が設けられなかった。仕方がないので404教室を閲覧室として使用した。椅子に座って読みたければ、一旦 図書室を出て廊下の突き当たりまで行かなければならない。たとえ仮設といえど、図書室の入口にはブックディテクション (図書自動チェック装置つき入退館ゲート)が設置されていて、閲覧席で読もうが読むまいが貸出手続をしなければ外に出ら れなかったので、結局404教室は自習室として確保されていたようなものというのが実際のところだった。

 利用者には狭くて気の毒だったが、学生はそれでも熱心に利用してくれた。事務スペースが丸見えだったので、新しい図書が 納品されてくると、すかさず横からタイトルを盗み見て、装備が終わるのをじっと待っていた学生もいたらしい。貸出手続も 貸出票に1冊づつ記入して貰うという、今では考えたくないほど面倒くさいものだったが、貸出冊数の一人平均は現在 を上回っていた。困ったのは電気だった。教室なので電気容量が著しく小さい。コピー機1台、パソコン2台を同時に 使用できなかった。コピー機はすでに拡大縮小が自由自在だったが、パソコンはWindows3.1もない頃で、ラインプリンター で騒々しく印刷し、FDは5インチという代物だった。もちろんLANもまだない。2台で電気が飛んでしまうのだから、 飛ばした時の情けなさは想像にお任せしたい。何度利用者を驚かせたことか、申し訳ない限りであった。

 さて、冬ともなると雪が心配の種である。今でこそ少なくなったが、中央線の遅延はしょっちゅう、不通になること もしばしばであった。そうなると高速道路や甲州街道は電車よりももっと雪に弱いので概ね通行止めである。大地震 でなくとも容易に帰宅難民になれたのだった。それはさておき、雪は降らなくても曲がりなりにも山の上である。 学生は1期生しかいないので人口密度は恐ろしく低い。4階の残りの教室はどれも大教室なのでほとんど使われてい ない。寒いところには自然と足が遠のくものである。利用者も少なくなった。もはや4階は図書館員しかいないと いっても過言ではなかった。人間から出る熱量を全く期待出来ず、暖房は入っていても1日中過ごすとなると我慢出来ない ほどの寒さだった。暖房器具を増やそうにも電気が足りないので電気ストーブは駄目だし、火気厳禁の図書館では 石油ストーブはもってのほかだ。室内でオーバーコートを着込み、タイプライターを打っている姿には利用者も 唖然としつつも同情してくれた。めざとい利用者は図書館職員の人数が普段より少ないことにも気づいたかもしれ ない。冬の日溜まりは結構暖かくて気持ちが良いものである。幸い4階の教室は南向きだし使われていない。仕事は バーコードラベル貼りだ。ブックトラックに図書を積み、菓子缶いっぱいのバーコードラベルを抱え、すりこぎ (ラベルがはがれないようにごしごしこするのにはすりこぎが一番である)を握りしめ、日向を求めて放浪していた のだった。

建設中の現在の図書館
[建設中の現在の図書館]


 こうして3万冊のほとんどにバーコードラベルを貼り終える頃には、図書館棟もほぼ出来上がり、引っ越しの準備 である。ところが引っ越しの時期に問題があった。図書館が退去した後の405教室を階段教室に改装するのに1ヶ月を 要する。図書館棟の竣工を待っていると、新年度に間に合わないから早々に退去せよというのである。2月下旬には 図書を段ボール積めにし、書架を解体し、図書館棟が竣工する4月までの1ヶ月は総務課に居候の身となった。さりと て総務課にも図書館職員5人分の机を並べる余地などあるわけもなく、結局現在の教員控室に荷物共々入り、まさに 倉庫暮らしの1ヶ月となった。

 4月。空っぽの建物にいよいよ入居である。講義が始まるまでに準備を整えなくてはならない。書架やカウンターが 組立られ、新しい閲覧机や機材が運び込まれた。箱詰めされた3万冊以上の図書は何人かの1期生に手伝って貰って 書架に並べた。ビデオの早回しのごとき目のまわる10日間だった。  新図書館のスタート後は、貸出手続をパソコンで行うべく蔵書データベースの構築に邁進したのだが、1冊1冊 データを入力する作業は1日中係り切りになっても遅々として進まなかった。期待に満ちた1期生は「いつになったら これ(貸出票)書かなくてよくなるの?」と尋ね続けてくれたが、とうとう卒業するまで図書に貼られたバーコード が使われる事はなかった。


活用しよう!!社史コーナー

社史コーナー


 図書館の1階に、「社史コーナー」という社史だけを集めて並べているコーナーがあるのをご存じですか?当館では現在約450冊の社史を所蔵しています。米国では、社史は経営者教育の最良の手段であると言われているそうですが、将来経営者を目指す人も、そうでない人も、興味ある会社の社史を読んでみませんか?そこには多くの発見と驚きがあることでしょう。

●社史ってなに?
 社史とは、会社の歴史的情報を、会議や取引の記録のような社内の資料に基づいて、客観的に、会社自身の責任において編集・発行される刊行物のことです。ある会社がどのように発展したのか、その過程でどのような経営上の 問題に突き当たり、それをどのように解決したのか....などを教えてくれる貴重な情報源です。
 社史の多くは会社の周年事業の一環として発行されます。そして、通常の販売ルートには乗らず、発行会社の選択 する贈呈先へ無料で配布されるため、手に入りにくい資料のひとつです。

●どんな社史があるの?
 当館で所蔵している社史の一部をご紹介します。

タイトル/発行元/発行年内 容
『やってみなはれ・みとくんなはれ-サントリーの70年』/サントリー株式会社/昭和44年』  共にサントリーの元社員であり作家の山口瞳、開高健が執筆し、内容を広告活動に重点を置き、読みごたえのある社史となっています。
『糸ひとすじ』/大同毛織株式会社/昭和35年  大同毛織の前身栗原紡績の設立社栗原ウメの伝記として編纂されています。
『シオノギ百年』/塩野義製薬株式会社/昭和53年  最初の製薬の成功、その価格の設定の経緯など興味深い内容が掲載されています。
『炎とともに』/新日本製鉄株式会社/昭和56年  現在の新日本製鉄株式会社は『炎とともに』というタイトルで『八幡製鐵株式会社史』『富士製鐵株式会社史』『新日本製鐵株式会社十年史』の三部作を刊行しています。特に『新日本製鐵株式会社十年史』は「八幡富士合併問題」の経緯に300ページ程をさいています。
『松下電器五十年の略史』/松下電器産業株式会社/昭和43年  創立者松下幸之助の生い立ちに始まり、小さな個人企業「松下電気器具製作所」が「松下電器産業株式会社」として世界的に躍進するまでを記しています。
『三菱銀行史』/三菱銀行株式会社/昭和55年  三菱財閥の金融活動を知る上で、貴重な資料といえます。
『創造限りなく:トヨタ自動車50年史』/トヨタ自動車株式会社/昭和62年  広く世に知られたトヨタ生産方式(かんばん方式、TQC活動、少人化)にも触れてあり、興味深くトヨタの足跡をたどることができます。



●もし目当ての社史が当館に無い場合は?
約1万冊の社史を所蔵している神奈川県立川崎図書館を訪ねてみてはいかがでしょう。


リレーエッセイ ふたこと・みこと



「マックスプランク研究所の附属図書館について」    

環境マテリアル学科教授 落合 鍾一



 1999年7月から1年間、ドイツのシュトットガルトにあるマックスプランク研究所に滞在する機会を得た。本研究所 の建物は、私が通っていた郊外のビュスナウと市内のゼーストラーセの2ケ所にあり、従って今のところ附属図書館 はそれぞれにある。ビュスナウの図書館には本研究所の柱である固体および金属両部門に関係する雑誌および図書 はかなり充実しており、いつでも閲覧可能な状態にある。そのため真夜中でさえ図書館の照明が輝いているのを 見ると、いかに研究者にとって図書館が情報源としての重要な機能を果たしているかがわかる。図書館が2ケ所に あることによる不便は全くなく、必要な文献や図書はE-mailで連絡すれば、研究所内のポストに直ぐ届くシステム になっている。手に入らないと思われる他の国にある会社の社内報や科学史に載るような古典的名著でさえ現物が 届いたりしたことには驚かされた。利用者の知的欲求を完全に満たすこと、その使命を図書館が全力で果たしてい ると言えよう。
 本研究所ではインターネットによるオンラインジャーナルが利用できるため、最近の文献に関しては研究室内で パソコンによる検索と閲覧、さらにはフルテキストのプリントアウトが可能になってきている。しかし、実際に雑誌 を手に取って、欲しい文献の周辺の記事にも目を通すことで、意外に役に立つ情報に出会うことが多々あるためか、 オンラインジャーナルを利用した後、図書館に行って雑誌を直接見る人は多い。
 以上、マックスプランク附属図書館について簡単に紹介したが、最後にもうひとこと。本学においてもオンライン ジャーナルの導入は研究環境の充実の面から是非必要であり、早急の実現を望みたい。しかし、このことが購入雑誌 の削減につながるのではなく、学生による雑誌の積極的な活用を促すことを期待したい。


蔵書点検結果報告



 図書館では年1回、図書館内の図書の在籍を確認する蔵書点検を行っています。今年度は8月28日から9月2日まで図書館 を休館し、蔵書点検を行いました。その結果、20冊の図書が行方不明となっていることが判明しました。蔵書点検期間中 は利用者の方々に大変ご不便をおかけしました。ご協力ありがとうございました。


お知らせ

★図書の移動について
1階に配架していた産業分野の図書(分類番号の600番代)は、2階に移動しました。
★雑誌製本状況について
1999年発行の和雑誌は只今製本中です。12月から利用できる予定です。
★臨時休館について
11月11日(土)は本学推薦入試のため、臨時休館とします。