教育・研究

図書館だより 第17号 2001.7.12

[目次]


本学教員が学生にすすめる本

この夏、キミはどんな一冊と出会うだろう?


 テレビやインターネット等のメデイアは次から次に私達に新しい情報を一方的に送って来て、時にはその情報の渦の中で溺れそうになることはありませんか。刺激の多い日常の慌ただしさの中で、ふと自分は今なにをしているのだろう?あるいは何のために生きているのだろう?などという思いが心の底にふっと浮かんでくることがあるでしょう。自分の中のこのような問いかけに対して、人と話すことも良いでしょう。でもたまたま手にとった本にそのてがかりを見い出した時の喜びはかけがえのないものです。一冊の本との出会いで、進むのをためらっていた背中を押されたり、あるいは人生の大事な選択が決まることも有るでしょう。暑い夏の消夏法は一冊の本と冷たい飲み物?ではいかがでしょうか。 今回は夏休みの読書プランの一助となればと思い、先生方からおすすめの本をご紹介いただきました。まずは気軽に読みたい本から読んでみましょう。一冊の本から世界は広がります。


■寺田 貢(メディアサイエンス学科助教授)
   最近、『チーズはどこへ消えた?』という本がベストセラーになりました。逸話を通して、人生への取り組みや悩み事を解決する方法を考えさせる本といえます。 「教師が学生にすすめる本」として、私が紹介するのは、この『チーズはどこへ消えた?』よりずっと昔に出版された『道は開ける』(Dカーネギー著、創元社)という本です。この本の原題は"How to Stop Worrying and Start Living"です。翻訳本が日本では昭和34年に出版されていますので、40年以上も書店に並んでいることになります。この本は、著者Dカーネギー氏が、有名無名を問わず、様々な人がどのように悩みを克服したかという体験談を聞き、これをもとに執筆されています。 私がこの本を手にとったのは、大学院生のときでした。特に大きな問題に突き当たっているのでもないのに、なんとなく将来などが不安感で、焦燥感を持っていました。他の人から見れば、大学院に通って好きな研究をしているわけですから、「悩み」などということ自体が贅沢だったのかもしれません。それでも、本人には「悩み」があり、この本を読むことにより、意識が変わったことを覚えています。 今では、「他の人の体験談がうまい表現で書かれていて、『おれも大丈夫だ』と思わされるだけだ」と冷ややかな見方もできますが、どうしようもなく悩んでいるときにはそのことが必要なのではないでしょうか。悩みがないことは幸せなことですが、何かに思い悩んだときにはこの本を試してみたらいかがでしょうか。


■大隅萬里子(バイオサイエンス学科教授)
  「科学する心」の源は知的好奇心です。何故?どうして?どのように?などという単純な好奇心にこだわって、1つ1つ観察し掘り下げていく過程を、楽しみ、深みにはまっていく科学者達の素の姿に私はひかれます。側にいたら変人ぶりに辟易するかもしれません。でも本の世界のそのような科学者達に出会ってみて下さい。

『生と死が創るもの』草思社『生命の奇跡』PHP新書『生命の不思議』NHK出版『われわれは何故死ぬのか』草思社 その他 柳澤桂子著  著者は第一線の生命科学者として発生遺伝学を研究していた30代前半から原因不明の病に倒れ、人生の半分近くをベッドの上で過ごして来ました。その中で生命科学の子供から一般向けの話から、エッセー、歌集と巾広い内容の本を出版し、死生観、科学信仰に支配された医学への警鐘などを含め鋭くしかし暖かい視点から生命科学の世界を紹介しています。昨年薬が劇的に効いて、ベッドから起き簡単な日常生活ができるようになられて、長年の愛読者としては大変嬉しく思っています。

『昆虫記』(ファーブル著、大岡信訳、縮刷版、河出書房)  なにをいまさらと思われる方がいらっしゃることでしょう。私も小学生の時に縮刷版で虫の生態の面白さに開眼させられましたが、町の図書館で大岡信さん訳本に再会し、むしろ詩情豊かで好奇心丸出しのファーブル博士の人間性に魅了されました。彼は1823年仏の貧しい農家に生まれ、働きながら中学を出て独学で化学、数学、物理学の学士を取り中学の物理の教師となりました。その後ある博物学者と出会い、昆虫学への興味を呼び起こされ、教師として働きながら研究し昆虫学博士となっています。しかし学歴がないため迫害され教師をやめ子供向けの本を書く中で研究を続け、ついに55才の時に25年間の研究成果の「昆虫記」第1巻を出しました。しかし生活難は続き、貧乏と戦いつつ自然の中の実験場を得て膨大な「昆虫記」10巻を完成した時は85才になっていたのです。フンコロガシとして有名なオオタマオシコガネが12時間にわたり羊のふんを食べつづけ、黒糸のようなふんを出し、その長さが2m88cmで体重と同じというくだりがあります。暑い夏の地面の上で、ふんを食べる虫を一心にのぞく愛すべきファーブルの姿を想像するだけで楽しくなります。なにも知らなければ汚く無気味な虫達が彼の目を通すことにより生き生きとした生命を営む仲間達にみえてくることでしょう。残念ながら大岡訳書は絶版ですが、他にもすぐれた訳書があります。

『ウニと語る』(団勝磨著、学会出版センター)  第二次世界大戦へ日本が突き進んでゆく激動の時代にペンシルヴァニア大学で学位を取り、細胞分裂という生命活動を解析し追跡し続けた発生学者の自伝です。素晴らしい機器が科学の 進歩を支えるのは事実ですが、確かな観る目とアイデアと知的好奇心があれば真実を掘り起こすことができるということを教えてくれます。

『生命科学はこんなに面白い:「いのち」のサイエンス』(柳田充弘著、日本経済新聞社) 酵母の分子生物学者の第一人者。理科教育は情操教育であるというのが持論。

『生物学個人授業』(岡田時人、南伸坊著、新潮社)  素朴な疑問と解答の楽しい本です。

 ヒトや他の生物のゲノムが明らかにされ21世紀はゲノムの時代といわれています。実験室で簡単にDNAを取り扱うことができるようになり、病気の治療や多くの産業で新しい生命科学の技術が用いられています。でも地球上にいる36億年の歴史をもつわれらが仲間達を含め生命科学の世界にはまだ知らないことがたくさんあります。知れば知る程生命をいとおしく思います。これらの本があなたの知的好奇心を刺激する一助になれば幸いです。


■村上 雄(環境マテリアル学科教授)
 季節や時刻にもよるが、大学から駅に向かって歩くとき、八ツ沢橋の近くで鳶が上空を舞っているのに出会う。「鳶に油揚げをさらわれる」ということわざがあるように、以前、鳶は人間の住むそばに生息していたのである。上野原の現在の自然環境は維持されて欲しいと思うと同時に、若いころ読んだ寺田寅彦の随筆を思い出す。『鳶と油揚げ』という題で、鳶は上昇気流とともに上がってくる臭いをもとに餌のありかを察知するのではと類推した文である。私は普段、金属の顕微鏡組織を観察していて、時々説明し難い模様に出会う。このような時、寺田寅彦による身の回りの物理現象を観察した随筆を時々思い出す。しかし、夏休みのように時間にゆとりのあるときは、まとまったものを読んだらどうであろうか。たとえば、物理学Ⅰの教科書で引用されている『物理学とは何だろうか』(朝永振一郎著、岩波新書)はどうだろうか。占星術から天文学や力学、錬金術から化学が発展し、生物も含めた物質内での現象が量子力学で解釈されるようになった歴史が、難しい数学を使わずに解説されている。とはいっても、ガリレオの斜面を使った実験による等加速度運動の発見あたりは気軽に読めるが、理想機関、エントロピーと進むにつれて、徐々に難しくなる。しかし、ともかく、最後の一般向け講演「科学と文明」まで読み、繰り返して読むことを薦める。多くの専門科目の修得に役立つと思う。


■谷口文朗(マネジメントシステム学科教授) 
本学が西東京科学大学として発足した当初、1年生のカリキュラムに「宗教」についての講義が組み込まれていました。科学と宗教というと真っ先に思い出されるのが、その当時の教会がガリレイの地動説を聖書の教えに反するものとして禁止したという歴史のひとこまですが、ローマ教会は1992年に法王自身がガリレイを非難したことは誤りであったことを認め、科学の成果をその教えの体系にしっかりと組み込んでいます。 ところで、世界にはいろいろな宗教があり、歴史は宗教的熱狂から殺し合いが起ることを示しています。殺戮を教義としている宗教は一つもないのに戦争が絶えてなくならないのは何故なのか。また、現代科学の最先端分野で、不死身のクローン人間が作り出される可能性が現実味を帯び、科学と宗教の接合領域で人間についての根本問題が問われはじめています。 「人間とは何なのか」という問いをみなさんが自らに問いかけ、その答えを求めて夏休みに「宗教」に向かい合ってみてはどうでしょうか。本学の図書館には聖書・コーラン・仏典など約300冊の宗教分野の蔵書があります。 私がこのことを勧奨するのは、プライベートな生活の場面では虹の7色のようにはっきりとした宗教を持ち、パブリックな場所では7色が混じりあうと太陽光線のように透明な光になるという立場に立って、「生命への畏敬」を生活信条として仕事に邁進するYOUTHが本学から巣立っていくことを希っているからです。


■大山幸房(外国語科目教授)
  最近読んだ本として『英語達人列伝―あっぱれ日本人の英語』(斉藤兆史著、中公新書)を推薦したい。特に「英語の神様」と言われた岩崎民平先生(元東京外語大教授、学長)が取り上げられているので、大変興味深く読んだ。(私は外語大でフランス語を専攻したので、残念ながら先生に直接教えを受けることはなかったが、学内でよくお見掛けし、また何度か講演を聞いたことがある。)その他の達人たちも、ほとんどが私がよく知っている有名人であるが、今回初めてその業績を知った人(例えば外交官の斉藤博)もいる。これらの英語の達人たちの業績の紹介も然る事ながら、随所で開陳されている著者自身の意見もすばらしい。著者(東大大学院助教授)の見解に私も個人的に大いに賛同するものである。このような本を通して、我が国における英語教育の現状について考えてみるのも有意義であろう。 もう一冊は私自身が読んだ本ではないが、書評で取り上げられていたので、大変興味を持った。それは、『ほくが読んだ面白い本・ダメな本そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』(立花隆著、文藝春秋)という長い長い表題の本である。これは立花隆の有りとあらゆる分野(「環境問題」から「生命や宇宙の謎」まで等々)の読書記録で、300点近い本を紹介している。この本を手掛かりとして、各人が興味を覚える本を見つけることもできる。


■井腰圭介(マネジメントシステム学科助教授)
大学に入学するまで、周囲にせきたてられて勉強してきた人も少なくないと思います。この辺で一息ついて、「生きることと学ぶこと」の関係を考えてみてはどうでしょうか。勉強なんてウザッタイ、そんな怒れる若者にお薦めの本です。 

『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キース著、早川書房)は知能の発達が遅れていた主人公が、脳に実験的な手術を施された後の経過を自己報告する形で書かれたSF小説です。題名の「アルジャーノン」とは、彼と一緒に実験されたネズミの名前です。明晰であることと幸福の関係を考えさせてくれる一冊です。最初は平仮名が多いので、漢字の苦手な人にも無理なく読めます(?)。

『人間の土地』(サン=テグジュペリ著、新潮文庫)は「星の王子さま」で知られる著者が、定期便飛行士の体験をもとに書いた小説です。「ぼくら人間について、大地が、万巻の書物より多くを教える。その理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。人間というものは、障害物に対して闘う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ」という書き出しで、困難に立ち向かう使命感が人間にどれほどのことを学ばせるかを静かに力強く描いています。箱根には彼の記念館があります。読んでから行くか、行ってから読むか、夏休みの計画に加えてみてはどうでしょうか。

『山びこ学校』(無着成恭編、岩波文庫)は、貧しかった1950年代の日本の中学生たちが身近な出来事を綴った生活記録です。労働の合間を見つけて学校にかよった子供たちにとっての「学ぶことの意味」が記されています。知ることが生きる希望につながるものであることを思い出させてくれる元気印の一冊です。バイトの合間に通学する大学生の課題図書に指定して、夏休みに自由研究を期待したいところです。


図書館ガイダンスを終えて

 今年度もフレッシュセミナーの一環として、4月から5月にかけてゼミ単位の図書館ガイダンスを実施しました。「図書館ガイド:図書館へようこそ!」という資料を配布し、所要時間は約50分で、館内案内、図書館サービスの説明、資料の並び方の解説、OPAC検索等を行ない、約400名の新入生が受講しました。今後もより一層充実したガイダンスに努める所存です。受講された皆さんからのご意見・ご感想をお待ちしております。

ガイダンス

ガイダンス2




リレーエッセイ ふたこと・みこと



「東京案内」      

メディアサイエンス学科教授 石田宏一



 手元に東京案内の本が二冊ある。東京に永らく住んでおり、いまさら東京めぐりでもないのだが、ある時から東京案内、それもなるべく詳しいものが必要になった。  私は毎年、年賀状は版画にしてきた。毎年それなりに良いものを作ることが出来たが、だんだん毎年デザインを考えるのが億劫になってきた。そこでいろいろと考えているうちに一つのアイデアが浮かんだ。シリーズものにしたらどうか、それも"私の東京百景"。  初回は御茶ノ水のニコライ堂、次回は北の丸公園にある旧近衛師団本部であったと思う。そして数年たっただろうか、東京といっても大して知らないことに気がついた。これまでの生活空間といえば新宿以西、下町方面はほとんど知らなかった。そこで、画材を求めてまわるついでに、東京をもう少し見直してみようと言う気になった。  本屋で東京案内を探しているうちにひとつ良い本が見つかった、『東京半日散歩』(新潮社)。この本で何より良いところはいわゆる観光案内でないところである。それに写真が豊富にはいっていて、地図もついており、パラパラと見ているとこの風景は版画に良いのではないかと言う気がしてくる。ちょうど同じころ、友人の嵐山光三郎が著書の東京旅行記』(マガジンハウス)を送ってくれた。この本もいわゆる案内本でないが、著者がいろいろな場所を歩き回ったり、買い物をしたりする様子が軽妙な筆致で活き活きと書いてあり、読んでいると出かけたくなる。それにグルメの彼らしく散歩先で食べたり飲んだりしたことも書いてあり、疲れたらどこかで一杯と言う気もしてくる。以来、いつも、この2冊の本を持って出かけるようになった。  絵にするつもりで見直した東京は新鮮であり、新しい発見があった。版画の方は十作ほど済んだ。あと九〇年、なんとか長生きして"私の東京百景"を完成したいと思っている。


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