教育・研究

図書館だより 第24号 2003.4.24

[目次]



特集 本学教員が新入生に薦める本


 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。 今回は特に新入生のためのブックガイドとして、先生方から自らの 読書体験で印象に残った本や皆さんの専門分野の理解を深めるために役立つ本をご紹介いただきます。充実した自分流の 大学生活を送るために欠くことのできない読書。今号が皆さんの読書プランの一助となれば幸いです。





石田 宏一(メディアサイエンス学科教授)

 高校生の時に、本を読むように先生によく勧められた。今となって、若い時に 読んだものが、どのように自分に残っているか分からないが、 読書の楽しみを身に付けたことだけは確かだ。良い本を読ん だ後の充実感はなにものにも替え難い。皆さんも漫画やテレビばかり見ていないで、 文字を読むことからなにかを得て欲し い。さて、皆さんに薦める本だが、まずは『ライ麦畑でつかまえて』 (サリンジャー著、白水社)である。これは素晴らし い小説である。永遠の青春小説といってよい。主人公の高校生ホールディンは、 phony(いんちき臭い)な大人の社会を罵倒 するくせに、自分はどうしてよいかわからない。学校の入退学を繰り返している彼は、またも友達とけんかして高校の寮を 飛び出してしまう。それから2,3日の彼の行状と感じたことがみずみずしい筆致で描かれている。彼の賢い妹フィービーと の組み合わせも絶妙だ。読後、主人公へ共感し、ちょっと考えさせられ、そして良い小説を読んだ満足感を感じるに違いない。
 大学生になったので、英語で何か読んでみたいという人には『Surely, You're joking, Mr. Feynman!』 (Richard. P. Feynman) を薦める。易しい英語で面白いことが書いてあり、英語で読むには絶好の本である。 ファイマンは朝永振一郎と共にノーベル賞 を貰ったアメリカの物理学者で、自由奔放な人として知られている。彼が大学院のときに行った プリンストン大学は英国風なの で、学部長主催のお茶会がある。あまり一般のしきたりをかまわないファイマンは、学部長夫人に紅茶には クリームを入れますか、レモンにしますかと聞かれ、両方お願いしますと言ってしまう。これを聞いて,学部長夫人がオホホと笑い、 発した英語が題名になっている。これと同じような工作好きの科学少年が大学で物理を学び、物理学者として活躍するまでの面白い話が 満載されている。




武田 俊哉(バイオサイエンス学科助手)

 【印象に残っている本】  今、『青いバラ』(最相葉月著、小学館)を読んでいます。 青いバラを作り出そうとしてきた育種の歴史、作り出そうとしている「バイオテクノロジー」の経緯を、インタビューを中心に 展開しているドキュメントです。 「専門」の図書と言えなくもありませんが、私がこの本に感銘をうけるのは、専門性より 「青いバラ」という一つのモチーフを巡る歴史的、空間的広がりのためです。 見えている現象は多くの見えていない背景に支えら れていること、些細な存在が同時に大きな現象を内包していることを感じさせてくれます。 私が大学生の頃、そのような広がりを感じさせてくれた本は、『戦争と平和』(トルストイ) 『百年の孤独』(G.マルケス) などの小説でもあり、『言葉と物』(M.フーコー)などの思想モノでもありました。 大学生であるこの時期に、興味のある分野を手がかりとして、そんな本との出会いを求めてみてほしいと思います。
【専門分野の理解を深めるために】  バイオの専門分野の「名著」は、各先生が授業の教科書・参考書に挙げられています。それらの 名著とは少しずれますが、私が専門とする「生物化学工学」のための入門書として、『道具としての微分方程式』 (斉藤恭 一著、講談社ブルーバックス)を薦めます。「生物」の本ではないので、皆さんの興味を引かないかも知れませんが、 「現象を見る道具としての数学」についての名著だと思います。私の恩師の著書なので手前味噌かも知れませんが、 この本の内容を講義で 聴いたがために、私はこの分野にいるのかも知れません。比較的分かりやすく書かれているので (分かりにくい部分はとりあえずとばしてでも) 読んでみて欲しいと思います。




高倉 はるか(アニマルサイエンス学科講師)

【印象に残っている本】 『動物行動治療学』(Benjanin L.Hart,D.V.M., Ph.D. Lynette A.Hart,Ph.D. 石田卓夫監訳、学窓社) 私は動物病院で行動治療科を担当しています。 問題行動(飼い主と暮らす上で困るような行動) の治療を行ったり、飼い主が動物とともに暮らしやすいような環境に改善するようアドバイスしたりしています。私がこの分野に進むこと を決めたのはこの本との出合いから。獣医学科に進学し、動物の身体や病気について勉強しながら、病気を治すこととペットが幸せに 暮らすことは、少し別のことなのではないかという気がしていました。動物は日常スケジュールや食生活を自ら選ぶことは不可能だから、 結局は飼い主によって運命が決められてしまう。飼い主の中にはかわいがっているつもりでいても、方向性がまちがっている場合もあります。 行動治療科という欧米でも新しく確立されつつある分野で、日本では私の学生時代にはその概念すら導入されていなかったので、 この本にであってまさに「目からうろこ」でした。縁あって著者であるハート教授のもとに研修することになったとき、 うれしくて本当によく勉強しました!自分の興味のもてることなら、熱意をもって根気強く勉強できるものだということを痛 感しました。みなさんが大学生のうちに自分の「やりたいこと」をみつけ、目標を達成するためのお手伝いができればと思っます。
【専門分野の理解を深めるために】 『The perfect puppy』(Benjamin L. Hart and Lynette A. Hart Freeman) 犬種別の性格・行動傾向を分析した本です。専門家用ではありませんから、この本では統計処理 に関してあまり詳しくふれられてはいませんが、 アメリカで1988年に出版された本が、ようやく日本でも評価される時代がきたよう に感じます。犬種図鑑などをみると、とかくよいことばかり書いてあり、 どの犬でも飼いやすそうに感じてしまいますが、 より客観的に、「何を目的に犬を選び、どのように暮らしたいのか」を考える上でとても参考になる本です。 私は「これから犬を飼いたいと思っている」という方にはよくお薦めする本です。邦訳本は絶版になったとのこと、現在、新版の出版を検討中です。




内藤 順平(アニマルサイエンス学科教授)

 『知の論理』(小林康夫,船曳建夫編、東京大学出版会) 「何故人は思考するのか、なのに若者は何故学習が苦手なのか。」それは禅僧でも無い限り、人は常に頭を使っていなければいられない様に 創られており、しかも怠惰に創られているためと思っている。今晩何を食べようか、位のことは必要に迫られて考えるが、さほど難しい思考 では無い。しかし億劫ではある。もし、晩飯ではなく、恋人とのデートのことなら、あわよくば禅僧でも楽しいことを思考してしまう。 でもこれが「意見を根拠にした近代的な主体概念にとって最大の脅威は、フロイトが発見した無意識の論理、・・・・・」(『知の論理』56頁より引用) と言ったような大学の講義では、皆さんは何を言っているのか分からないと言って思考することをやめ、眠っていますか。それもいいでしょう。 しかし、考えてもみよう。言語をもって思考するのは人以外にはない。もし、あなたが人でありたいのなら、大学生でありたいなら、思考の我慢強さ を養って貰いたい。言語は携帯電話のためでもなく、メールのやりとりのためでもなく、思考を実行するためにある。一度、お喋りをやめ、 何かを考えてみよう。そんなときに役に立つのがこの本である。 この本は東京大学教養学部1年生の必修科目「基礎演習」のサブ・テキスト 『知の技法』の続編である。この本は理系の学生のために書かれたものではないが、内容は文系、理系に関係なく、少々考えなければ理解できない ような事柄を一つずつ取り上げ、論理的な思考と教養を養ってくれる。諸君がおもしろいと思って読めれば思考力が身に付き、耐えられないと思えば 忍耐力が身に付く。大学は中学、高校の延長線上にあるのではない。従って、大学は学校ではない。自ら考えることをやめた人にとって大学は・・・・・。





渡邉 浩一郎(環境マテリアル学科講師)

 新入生の皆さんは大学生活に慣れましたか? 今日は、皆さんの教養と専門に関する本を紹介させて頂きます。 私は、大学生として身に付ける 教養の中で、自分の考えを「正確に、早く、印象的に」相手に伝える表現力を養うことも大切と考えています。「学ぶ」は「まねる」が語源と言われて います。いわゆるマニュアル人間ではいけませんが、少しでも良い方法を参考に自分に合うように改善して、表現力を高める努力も必要です。 そこで、一例として、『「分かりやすい表現」の技術-意図を正しく伝えるための16のルール-』(藤沢晃治著、講談社ブルーバックス) を紹介します。この本では、日常よくみかける文、図、表を具体例として豊富に取り上げて、その表現のどこが、なぜわかりにくいのかを明確に説明しています。 その上で、著者が考える改善例を示しています。したがって、皆さんも「自分ならば、このように改善する。」といったことを考えることにより、受け手の視線にたった自分流 の表現力を養うことの必要性を感じると思います。  
 次に、環境を理解するための植物科学を専門とする立場で、皆さんの勉学の導入となる本を紹介します。一例として、私は、 『植物生理化学入門-植物らしさの由来を探る-』(佐藤満彦著、恒星社厚生閣)をあげます。この本は、私たちが植物をみたときに動物、 微生物など他の生物とは異なって受けとる印象を背景において、植物科学の基礎知識(分類、構造、生長、栄養、光合成、呼吸、二次代謝等) を生理学、生化学の側面から記述しています。遺伝子関連の話はほとんど出てきませんが、植物科学には未解決の問題が未だたくさんあることも わかってもらえると思います。


リレーエッセイふたこと・みこと

「本屋と図書館」

マネジメントシステム学科助教授 佐々木 愼一


 私が会社員だった時、昼休みは、毎日といっていいでしょう、 会社の近くの本屋に行っていました。2軒のお得意様(?)がありました。仕事の内容がマーケティングでしたから、どのようなことに皆が興味がある のかに接していないと、感覚が鈍くなってしまうからです。マーケティングをやる上でこれは致命傷になってしまいます。「今」「現在」を商売にして いる本屋は非常に多くの情報がころがっています。特にチェックをしていたのは「雑誌」関係です。新しい雑誌がでているか、どの雑誌にタダ読みを している人が多いかです。
 昼休みにはこのようなことをやって、2,3か月に1度ぐらいは大きな本屋にいきます。 私の場合には東京駅の八重洲ブックセンターでしたが会社を3時頃 出て2時間程度かけて上から下までブラブラしながら本を見ます。「ヘエーこんな本があるの」「こんなこと知らねえなー」ということを思いながら散歩を していました。 こんなことをやっていると、「オイ、これから先こんな感じのモノが売れるんじゃない」というヒントがでてきます。そうすると今度は図書館です。 それに似たことがないか本を探しに行きます。過去にどのようなことがあったか調べないと、どっちの方向に向いているのかわかりません。 これがわからないと先が読めません。そしてある程度これはいけそうだと思ったら私と同じようなことを日頃やっている友達と酒を飲みにいって議論をします。 必ず口角泡を飛ばすことになります。
 現在と過去をむすぶ役割をしているのが「本屋」と「図書館」だと思っていますが、女房には「酒のさかなを探してるだけじゃない。」といわれています。 (これが本当かもしれません)



平成14年度 利用統計

グラフ
●入館者数:149,127人(前年度比14%増)  ●貸出冊数:10,135冊(前年度比8%増)



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