教育・研究

図書館だより 第26号 2004.4.20

[目次]



本学教員が新入生に薦める本

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから好きな本をたくさん読むぞと希望に胸を膨らませている方も多いことと思います。でも何から読めばいいのか迷っている方もいるでしょう。そんな新入生のためのブックガイドとして、先生方から自らの読書体験で印象に残った本や皆さんの専門分野の理解を深めるために役立つ本をご紹介いただきます。もちろん上級生の皆さんにもお役に立つこと間違いありません。


亀井 聡(メディアサイエンス学科講師)

子供の頃は、広島の紀伊国屋書店を貸切にして、置いてある本を片っ端から読むのが夢でした。今、その夢が叶ったとしても、無軌道に活字に溺れる余裕は時間的にも精神的にも無いと思います。読書は有益である、とは言いませんが、無益なことに時間を使う余裕は若い時しかありません。学生の皆さんは、今のうちにできるだけ時間を浪費しておきましょう。
さて、まず印象に残っている本ですが、『佐藤君と柴田君』(佐藤良明、柴田元幸著/白水社、新潮文庫)を挙げたいと思います。本書は、大学で英語を教える傍ら現代英米文学の翻訳も手がける二人の、英語と教育に関するリレーエッセイ集です。などと紹介するのは野暮で、著者達のちょっとおかしな日常を切り取った文章の集成、と言った方が適切でしょう。ちょうど十年くらい前、私は本書に描かれたエピソードに声を上げて笑いながら、ぼんやり「大学教員を目指すのも悪くないな」と考えるようになったのでした。
次に、新入生の皆さんに是非読んで欲しい本として、『〈意識〉とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤』(下條信輔著/講談社現代新書)を挙げたいと思います。科学を志す者ならば、一度は「人が物事を認識するとはどういうことか」について突き詰めて考えてみる必要があると思います。本書はその良いきっかけを与えてくれることでしょう。認知心理学の入門書として気軽に読める体裁でありながら、現在では常識とされていることがらへの新たな問いかけも多く見られ、著者の「研究者としての姿勢」が垣間見える本です。
以上、二冊紹介しましたが、本はやはり自分自身の手で探しましょう。で、面白い本を見つけたら、是非私に紹介しに来てください。

岩瀬 礼子(バイオサイエンス学科講師)

  高校で化学を学ばなかった人、授業は受けたけれど好きでなかった人、このような人が新入生の中にいると思います。そこで、化学が楽しくなる本を紹介します。一つは、『最新版 視覚でとらえるフォトサイエンス化学図録』(数研出版編集部編/数研出版)です。私は新聞の読書欄を見ていてこの本を知りました。実際に実験をしたり観察をしているような臨場感溢れる写真や図を楽しめます。これは高校化学を目で見ながら学べる本です。2冊目は、『化学ってそういうこと! 夢が広がる分子の世界』(日本化学会編/化学同人)です。身の回りの化学をとてもわかりやすい文章と図や写真で解説した本です。携帯電話の液晶ってどんなもの?ペットボトルは何からできているの?それをリサイクルして何を作っているの?このような身近な物やできごとに潜む化学を知る楽しみが味わえます。

次に、遺伝子の化学の入門書として、『バイオ・高分子研究法6 高分子化学と核酸の機能デザイン』(高分子学会 バイオ・高分子研究会編/学会出版センター)を紹介します。DNAやRNAの化学合成がどのように進歩してきたか、化学合成したDNAを薬やバイオ研究のための素材として利用する話、遺伝子を切るハサミとして使えるRNAの話、などが、学部学生にわかる表現で書かれています。この分野の最前線を知りたいときには、『人工核酸を活用する化学的アプローチ ゲノムケミストリー』(関根光雄・齋藤 烈編/講談社サイエンティフィック)を読むと、核酸化学者たちがゲノムの機能を制御する物質やゲノムを検出するセンサーの開発にどのように取り組んでいるかを知ることができます(大学院生向き)。

花園 誠(アニマルサイエンス学科助教授)

1) 私の読書から―印象に残っている本
『教育入門』(堀尾輝久著/岩波新書)
3年前、アニマルサイエンス学科(当時はコース)に第一期生124名を迎え入れた。そして、大学院生だったころに聞いた若い助手の言葉「大学の先生は教育の素人だ。」を思い出し、青ざめ、実感していた。本学に赴任するまでは、研究一筋だったので、「研究」のために智慧と体力と気力の限りを尽くすことはあっても、「教育」のための努力などしたことはなかったし、そもそも、「教育」の基本すら学んだことがなかったからである。では、「教育」は無理でも、自分が学生にしてあげられることは何だろう。その答えの一つが、「研究遂行(自分の夢の実現)の智慧を、学生の夢・希望を叶えるために敷衍・転用する」ことだった。早速実行に移し、学生の夢・希望を叶えるための課外活動団体を9つ立ち上げた。活動のための場所を求め、共同研究申し入れの交渉術を応用、動物園、老人養護施設、牧場、動物病院などと交渉を繰り返し、学生を送り出した。紆余曲折はあったが、今年4月、活動報告会をするまでに発展、一段落した。そして、ふと、自分の読書歴(人文科学系)に「教育」に関する分野がそっくり抜けていることに気が付き、手始めに読んだのがこの本である。最終節「希望をひらく教育を」にフランスの詩人の一節「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸にきざむこと」を引用、「教育はこうありたいものだと願うのです。」と結んでいる。共感するところが大いにあり、今、最も印象に残っている一冊である。

2) これだけは読んでおこう―研究者の立場から
『動物とふれあう仕事がしたい』(花園誠編著/岩波ジュニア新書)
我田引水ですが、アニマルサイエンス学科に入学したみなさんには是非読んでもらいたい、入魂の一冊です。ちなみに長野県の推薦図書にもなっています。

小杉 俊男(環境マテリアル学科助教授)

1) 私の読書から―印象に残っている本
私が大学1年のとき解析学演習の試験を受けたときのことはいまでも忘れません。かなりできたと思っていたのにつけられた点数は零点に近いものだったと記憶しています。そして数学を専攻するのをあきらめました。最近大変よく売れた養老孟司の『バカの壁』(新潮新書)という本がありますが、その中で人間だれでも理解の限界を持つことがあると書かれていて、数学の例がでてきます。ここはすぐ理解できました。壁を意識することは逆に何かをわかることにつながる可能性があります。私がこの機会に若い皆さんに考えてみてほしいのは「わかる」とは何か、また「わからない」とは何かということです。養老孟司の他の本に書かれている内容も本質的には同じですからお勧めできます。作家の橋本治の『「わからない」という方法』(集英社新書)、神経内科医の山鳥重の『「わかる」とはどういうことか』(ちくま新書)もお勧めできます。橋本治は、イタリアルネッサンスの画家ボティチェリの描く女の人とフランス近代の画家モジリアニの描く女の人が卵形の顔、細長い首と共通点があると直感した後でモジリアニの出身地が実はフィレンツェであることを知ったという経験を書いています。まさに「わかること」の本質を示すエピソードです。山鳥重は、わかっているかどうかわからないときには言葉にしてみたり図にしてみたりすればよい、わかっていないところがはっきりすればわかるための第一歩となると書いています。

2) これだけは読んでおこう―研究者の立場から
環境物理の立場から、2冊の本を上げておきます。1冊目は環境工学の専門家、小宮山宏の『地球持続の技術』(岩波新書)。地球環境政策について具体的で説得力のある長期ビジョン「ビジョン2050」が展開されています。2冊目は宇宙物理学者の池内了の『科学の考え方・学び方』(岩波ジュニア新書)。視野の広い著者の平易で内容のある文章が魅力です。

アン・ジェンキンズ(外国語科目講師)

"Animal Farm" (1945) by George Orwell

The first time I read "Animal Farm", I was too young to understand its political message. I just enjoyed it as a "fairy-story". However, it was written by one of the most influential political writers of the twentieth century and is one of the most famous books of political allegory ever written.

"Animal Farm" was written in 1945 and is based on the Russian revolution. The animals of Manor Farm revolt and establish Animal Farm, where "All Animals are Equal". Everything is wonderful for a while - until the pigs get out of control. Soon lies and terror rule and we finally find that "some animals are more equal than others". It is a brilliant description of what happens when the revolution goes astray.

Now that communism has failed, is "Animal Farm" out of date? I don't think so - this book has never been out of print and is still relevant now. The story about independence won, but lost, reminds us that freedom is fragile and precious. Power corrupts and there are always power-hungry people looking for it. Orwell wrote against any concentration of power and all forms of oppression and corruption. People continue to learn from "Animal Farm".

* "Animal Farm"は日本語訳『動物農場』(高畠文夫訳/角川文庫、関口正和他編/旺史社)が刊行されています。


ビギナーのための図書館利用案内

新入生やあまり図書館に足を向けたことがない上級生のために、基本的な図書館の利用案内をします。試験やレポート作成の前に慌てないために、覚えておいてくださいね。
●開館時間 月曜日~金曜日 9:20~19:45
土曜日       9:20~13:20
●カウンター 貸出・返却や各種申込の受付、利用相談等を行っています。わからないことがありましたら、まずがはカウンターにお越しください。
●貸 出 借りたい図書と学生証を持ってカウンターで手続きをしてください。学部学生は5冊まで14日間借りることができます。卒研生は10冊まで20日間借りることができます。ただし、雑誌と参考図書(辞書類)は通常の貸出は行っていません。
●返 却 借りた図書は返却期日までに必ずカウンターに返却してください。返却期日を過ぎると遅れた日数分貸出停止になります。
●更 新 貸出期間を延長したいときは、返却期限前に図書と学生証を持ってカウンターで手続きをしてください。予約者がいなければ1回に限り継続して借りることができます。
●予 約 利用したい図書が貸出中の場合、予約することができます。「予約申込書」を記入のうえ、カウンターで手続きをしてください。
●オーバーナイト貸出 通常の貸出を行っていない雑誌や参考図書(辞書類)は、閉館30分前から翌日または休日明けの午前10時までのオーバーナイト貸出を行っています。通常の貸出とは別に3冊まで借りことができます。
●指定図書の貸出 講義細目に教科書として掲載されている図書は、1Fの指定図書コーナーにあります。通常の貸出とは別に3日間、2冊まで借りることができます。
●図書ラベル 図書の背に付いているラベルを請求記号といい、図書が配架されている場所を表します。
請求記号
●利用上のマナー ・飲食や喫煙
・大きな声でのおしゃべり
・携帯電話等の使用
・動物を連れての入館
などはご遠慮ください。ご協力をお願いします。


リレーエッセイふたこと・みこと

「小笠原鯨類実習を終えて」

アニマルサイエンス学科教授 粕谷 俊雄

3月19日、東京港竹芝桟橋で小笠原丸から一団の日焼けした学生が下船した。小笠原での実習から戻ったアニマルサイエンス学科の学生約50名である。
上野原の山中で水生哺乳類学の講義を聞く学生が不憫で、野生の鯨を見せたく、この実習を企画した。事前に海図の使い方や海況の見方など海洋観察の基礎を講義して14日の出発となった。港を出るとすぐ探索が始まる。自分で相手を見つけることを学ぶのである。1時間交代で鯨類と鳥類の出現を記録し、日没30分前まで続ける。伊豆大島東方では、遠方にマッコウクジラを発見して学生が興奮する。生まれて初めて自力で見つけた鯨だ。当然である。特徴的な斜めの噴気と、尾ひれが見えた。1888年に商業捕鯨を止めて16年、マッコウクジラの出現が増える傾向にある。船酔いと、潮風の冷たさと、顔に降りかかるしぶきの塩辛さがこたえた学生もいたようだが、皆がんばる。
翌朝は日の出30分後から探索開始。聟島列島が見えてくる。水深200mだからザトウクジラが見えるだろうと話して学生を元気づける。父島が望まれるころ、喚声があがる。ザトウクジラの噴気だ。学生の熱心さに一般の乗客が感心する。
16日は前日とかわって快晴。早朝に高台に上がる。きらめく海面にザトウクジラの噴気をみて「来た甲斐があった」と学生が言う。これを聞くと私は「連れてきてよかった」と思う。今日の午後には、小型船2隻に分乗して、間近にザトウクジラを見る機会がある。そこにはさらに大きな感動があるだろう。
父島では施設見学・自由行動とタイトな日程をこなして、18日正午すぎ二見港を出港。6日間の実習を終えて竹芝に上陸した学生は心なしか表情が引き締まったように思えた。


雑誌のタイトル入れ替えのお知らせ

★2004年から下記の外国雑誌を新規購読します。
"American Journal of Occupational Therapy"
"Animal Behaviour"
"Animal Cognition"
"Anthrozoos"
"Behavioral Ecology"
"International Journal of Aging and Human Development"
"The Veterinary Clinics of North America"
"Veterinary Medicine"
"Visual Neuroscience"

★2004年から下記の外国雑誌の購入を中止します。
"Biological Rhythm Research"
"Endocrinology"
"Journal of Wildlife Management"
"Poultry Science"
"Wildlife Society Bulletin"

★2004年から下記の外国雑誌は冊子体から電子ジャーナルに変更します。
"Biotechnology and Bioengineering"


寄贈資料の御礼


平成15年度に本学の先生方から、下記の通り貴重な資料のご寄贈を賜りました。厚く御礼申し上げます。

【図 書】
高橋 清先生 『ヒトは宇宙で進化する』他10冊
石田宏一先生 『大学新入生のための数学入門』他5冊
松本敏浩先生 『やさしく学べる線形代数』他16冊
森 貴久先生 『生物は体のかたちを自分で決める』他4冊
矢尾板仁先生 『ライフサイエンス系の基礎物理化学』他5冊
【雑 誌】
村上 雄先生 『ふぇらむ』
高橋 清先生 『電子材料』『M&E』"IEEE Electron Device Letters" "IEEE Spectrum"
高木喜樹先生 『まてりあ』『高圧力の科学と技術』『溶融塩および高温化学』"MRS Bulletin"
実吉峯郎先生  "Chemical & Pharmaceutical Bulletin"他8誌



平成15年度 利用統計

●入館者数:139,926名  ●貸出冊数:9,664冊
身分別貸出冊数



お知らせ

●「Wiley InterScience」電子ジャーナルの利用について

Wiley 社発行の電子ジャーナルのうち約220タイトルが利用できるようになりました。詳しくはhttp://www.lib.ntu.ac.jp:8080/oj/oj.htmlをご覧ください。