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第136回「前向きな子どもたち」(2015.4)

准教授 林 友子

准教授 林 友子

  新年度が始まって早ひと月が経とうとしています。この4月に入園、入学した幼児や児童は、新たな環境にどの位慣れたのでしょうか。幼稚園現場にいた○十年前を思い起こしてみると、入園当初の登園時、保護者から離れ難く、泣き叫ぶ子どもは結構いたものです。しかし、年々、そうした子どもは少なくなり、多くの子どもたちは、内心は不安なのでしょうが、それを表だって表わすこともなく、園生活に馴染んでいっているように見えます。

  そのような中、入園してきたA子ちゃん。入園式の翌日、母親に見送られて園まで来ると、大粒の涙を流しながら大声をあげて泣き、お母さんの手を頑として離しません。お母さんに時間的な余裕があれば、少しの時間園にいていただいて、A子を安心させながら園生活の様子を知らせていく方法もあったのですが、お母さんはお姑さんの介護をされていて、そのような余裕はなく、後ろ髪を引かれながらも泣き叫ぶA子を置いて帰って行かれました。A子の泣き声はさらに一際高くなり、園内中に響き渡ります。そこで、傍らに副園長が寄り添い、思う存分泣いていいよとA子の気持ちを受け止めながら園庭を散策することにしました。すると、泣き声は徐々に小さくなり、半時間ほどすると止みました。時折思い出したように泣き始めるのですが、すぐに泣き止み、お帰りまで副園長と一緒にアヒルやオタマジャクシ、先生や友達の様子を観察して過ごしました。

  A子は、翌日も大泣きし、前日と同じような姿を見せます。そして、そこに寄り添う副園長。次の日も、また次の日も…毎日同じことを繰り返します。しかし、同じことの繰り返しに見える行動の中に微妙な変化が見られるのです。泣き方、泣く時間、声のトーン、何より、泣きながらも足の向きが園に向かうようになっていること、そして、視線は自分の学級へ向いていること。同じように泣いていても、この変化を見れば、“ああ、A子の気持ちは園に向かっているんだな”と感じとることができました。

  案の定、4月末には、泣いて来ることもなくなり、照れくさそうな笑顔を見せることも…。その後のA子は、大泣きで自己主張をしたように、しっかりと自分の思いや考えを言いながら遊び、年長になると友達をリードしていくようにもなりました。

 

  何かに戸惑ったり躓いたりしている子どもは、自分自身でそれを乗り越えようともがきながらも、より前向きであるんだなあ、大人はそのことを信頼して見守り、支援することが大切なのではないか…と、考えさせられたA子の思い出です。



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