TEIKAジャーナル

第34回 「子どもの運動・スポーツ環境への期待 ~『日本版 ファーストティー』の発想~」(2011.5)

2011/05/29


 近年、日本の子どもが外遊びをしなくなったとされるデータが様々なところで報告されています。ある大学教授による調査では、子どもの1日の歩数量は、1980年代は約1,2000歩であったものが、1990年に約8,000歩、2000年に約4,900歩、2007年には約3,900歩と、年代が進むにつれて減少傾向にあるとのことです。一方、大手広告代理店が実施した「小学生のゲーム機保有率」に関する調査によれば、低学年で30.5%、中学年で59.5%、高学年になると70.0%もの児童が「自分専用」のゲーム機を保有し、午後5時から6時台に多く遊んでいることが報告されています。さらに、内閣府の「少年非行に関する世論調査」結果(2011)では、「少年非行が増えた」と感じている人が75.6%にのぼり、その背景として携帯電話やインターネット等の普及による影響が大きいのではないかと考えられています。現代社会において、子どもたちにおける自由時間の過ごし方について選択の自由性が高まった一方、身体を動かす機会の減少や問題行動も多くなっているようです。

 文部科学省では「スポーツ振興基本計画」(2000年)や「スポーツ立国戦略―スポーツコミュニティ・ニッポン―」(2010年)において、子どもの運動・スポーツ環境の確保に向けた方策を打ち出し、日本学術会議の健康・スポーツ科学分科会においても「子どもを元気にするための運動・スポーツ推進体制の整備」(2008年)とする提言をまとめ公表しています。また、東京都教育委員会(2010年)では、子どもの生活活動量が減少している現状を踏まえ、より具体的な数値目標として「1日の生活活動量を15,000歩とする」ガイドラインまでもが示されています。このように、子どもたちが身体を動かす環境をどう確保して行くかは今日の重要な課題となっています。

 2016年のオリンピック(リオデジャネイロ大会)では「ゴルフ」が正式種目とされ、112年ぶりにオリンピックの舞台に復帰することが決定されました。こうした動向から、ゴルフ業界における子どもに対する取り組みが活発化しています。日本プロゴルフ協会(PGA)は、2009年6月に「PGAジュニアゴルファー育成プロジェクト」をスタートさせ、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)はGBD(ゴルフ・ビジネス・ディビジョン)が主導となって2010年4月に「LPGA放課後クラブ」を開校させました。現在、日本ゴルフ協会のジュニア会員数は約13,000人を数え、毎年1,000人前後の増加が続いています。私たち(北ら)が近年実施した全国のゴルフ場に対する調査結果でも、約半数のゴルフ場で子ども達に対して特別な取り組みや何らかのサービスが実施され、実施を計画しているゴルフ場も多く見られました。

 日本には現在約2,400箇所のゴルフ場が建設されており、その面積は日本国土の0.7%、森林面積の約1%をも占めています。日本の子どもにおける外遊びの減少や体力低下が問題視される中、広大なスポーツ施設である「ゴルフ場」を通じた子どもの運動・スポーツ環境の確保はできないものでしょうか。コースの長さや形状、プレーの技量によっても異なりますが、1回のラウンドで通常約14,000歩~20,000歩程度の歩数が確保されます。米国を中心とした世界6カ国では『ファーストティー』(The First Tee)という子ども向けのゴルフプログラムが盛んに行われています。ゴルフ人口の減少やゴルファーの高齢化等によって、日本におけるゴルフ場の供給過剰が叫ばれる中、米国のような「ゴルフを通じた子どもたちの健全育成」の発想からの取り組みが今まさに期待されていると思います。

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