教育・研究

フィールドミュージアム「OPEN AIR LAB」

OPEN AIR LAB とは「自然との共生」を理念として帝京科学大学東京西キャンパスに展開するフィールドミュージアムのことです。このミュージアムは,どこかに立派な建物があり,その中に貴重な品々が静かに陳列されているような伝統的な「博物館」ではありません。その主要な中身は,学生や教員が行う活動それ自体であり,「自然との共生」に関する知恵・知識・情報などの継承すべき無形物です。

特色

  • 1)「自然※1との共生」※2を理念とする。
  • 2)知恵・知識・情報といった無形の継承物を収集し共有する※3
  • 3)特定の建物を本体とせず,学内外の施設・場所・人のネットワーク※4を本体とする。
  • 4)「自然との共生」に関わる教育を支援し,学生の自由な学修を支援する。

活動予定

  • a.「キャンパス全体がミュージアム」のコンセプトにもとづく東京西キャンパスの環境整備※5
  • b.「学生と教員の活動がメディア」のコンセプトにもとづく情報発信※6
  • c. 象徴的施設となる「ブリコラ」※7の整備とそこを用いた活動の展開
  • d.「ミュージアム認定学生プロジェクト」※8を通じた学生の主体的学修の支援
  • e.「自然との共生」に関わる正課教育の支援(学芸員課程教育の実施を含む)
  • f. 研究ブランディング事業:「中山間地域における『自然との共生』の市民科学※9研究の推進」※10

以上を通して,東京西キャンパスの活性化※11と持続可能な地域社会への貢献※12を目指します。

詳しい説明

上記の説明の中で,右肩に数字が付いている部分のより詳しい説明を以下に記します。

※1 自然

ここでいう「自然」とは,単なる「きれいな景色や環境」ではなく「動物・植物・菌類・細菌類の多様な生命を含む動的全体」を指します。もちろん人もこの自然の一部です。東京西キャンパスは富士山北域の深く豊かな山地群の真っただ中にあります。南に丹沢山系,北に奥多摩山系,西には大菩薩連峰や天子山地が広がっています。その中央を,富士山を源流と桂川/相模川が峡谷を刻んでおり,それはやがて相模湾へ注ぎます。この豊かな環境は,ツキノワグマのような大型動物から,その排泄物や死体を分解する菌類,果実の表面に付着した無数の自然酵母まで,多様な生命をその懐に抱えています。この「自然」の中に入ることは,それ自体が素晴らしい経験であり,喜びです。さらに,そのような自然の中でこそ可能になる,人と動植物との交流も都市では手に入らない魅力となりえます。

※2 「自然との共生」

「建学の精神」の一節でもあります。(建学の精神:人類の将来を正しく見据え,生命の尊厳を深く学び,自然と人間の共生に貢献できる人材を育成し,持続可能な社会の発展に寄与する。)

※3 無形の継承物

国際博物館会議(ICOM)の定義によれば,博物館は「有形・無形の継承物を、収集・保存・研究・共有・展示する」とされます。OPEN AIR LABは,後者に焦点を当てた活動を行います。特に,「自然との共生」に関する知恵,知識,情報が,収集や共有の対象となります。

※4 ネットワーク

OPEN AIR LABを構成するネットワークは次の4種類に分類できます。

  • 1.キャンパス内の場所・施設のネットワーク
  • 2.学生のネットワーク
  • 3.教員のネットワーク
  • 4.大学外の場所・施設とのネットワーク
  • 5.大学と市民とのネットワーク

イメージ図

※5 東京西キャンパスの環境整備

解説版や各種サインの設置,遊歩道整備(周遊路の設置、歩車分離対策など)の他,ベンチ,日陰,充電施設,屋外WiFiなど,学生や訪問者の居方を変え,居心地をよくする環境整備を検討しています。

※6 学生と教員の活動がメディア

学生と教員の生の活動それ自体が魅力的なコンテンツであると考えており,それをそのまま見せることを積極的に進めていく計画です。

※7 ブリコラージュ

人類学者で哲学者のレヴィ=ストロースが用いた人間の根源的な知恵のあり方を示す言葉です。私たちは、この知恵のあり方を大切にしたいと考え,OPEN AIR LABの象徴的空間に「ブリコラ」という名前をつけました(現在工事中)。

ブリコラージュとは,一言で言えば「ありもの使い」の知恵のことです。しばしばエンジニアリングに対比されます。エンジニアリングは,特定の目的に対し,まず設計図を描き,最適な部品をあつらえ,無駄を省き,より完成された形を追求します。一方ブリコラージュは,目の前の問題に対し,設計図やあつらえた部品無しに,なんとか対処しようとします。例えば,森の中で予期せず夜を過ごさねばならなくなった時,急な事故や災害の時,私たちは,ありあわせの物や自然物を使ってなんとかしようとします。そして,事実,なんとかする力を持っています。

私たちが高度な文明を作ることができたのは,エンジニアリングという知性のおかげです。しかし一方で,それは自然を支配し改変するために使われてもきました。人類が今よりももっと自然と共生していた時代からあるブリコラージュは,エンジニアリングよりも現状を改変する度合いがずっと低いやり方で問題に対応しようとします。「自然との共生」のためには,無駄があって不格好であっても,ありものをそのまま生かす私たちのもう一つの知性を解放し,使いこなしていくことが大切であると考えています。

また,ブリコラージュは,不確実性が高まっていく時代に有効な知性でもあります。私たちは未来に何が起こるかを知りませんが,これまで経験していないことが予想もしないタイミングで起こりうる,ということは知っています。そのような不確実で予測できない未来に対して完璧な準備をするのは不可能です。大事なことは,それが実際に起こった時に,その場にあるものを使ってなんとかすること,つまりブリコラージュすることでしょう。さらにブリコラージュは全ての人間が持つ知性のあり方ですから,エンジニアリングだけでなくブリコラージュを積極的に行う社会では,多くの人の力を結集することがより容易になるとも考えられます。

※8 市民科学

科学技術の発展は人間の生活を便利で安全にしてきました。しかし一方で,その負の面によって人々の幸せを奪ってもきました。科学技術は,その成果物や技術を社会に提供することを目標としてきたため,科学プロセスのブラックスボックス化が進み,市民にとっての理解がますます困難になってきています。そのため,社会による科学技術の制御はより困難になってきているように見えます。そこで生まれた考え方が市民科学です。それは科学を専門家の占有物にならないようにし,同時に,市民の参加によって科学者だけでは不可能な新しい公共の科学を発展させることを目指します。そのためには,市民と科学者の間の科学コミュニケーションを豊かで生産的なものにしていかなくてはなりません。OPEN AIR LABは,「自然との共生」を市民科学として発展させることを目指し,市民との科学コミュニケーションを重視します。

※9 研究ブランディング事業

当面,以下の5つのプロジェクトを推進する予定です。

  • 1)自然情報共有デジタルシステムの開発と活用
  • 2)新しいインタープリテーションプログラムの研究と活用
  • 3)発達障がい児と家族に対する多様な動物介在介入(AAI)の実践と研究
  • 4)高齢者のペット飼育支援活動と研究
  • 5)伴侶動物の個性と共生の知恵に関する研究

イメージ図

※10 認定学生プロジェクト

学生個人や団体によって行われる「自然との共生」に関する活動から,OPEN AIR LABが認定する活動です。

※11 キャンパスの活性化

最初の大学は学生と教員の組合から始まりました。今も大学が学生の学びの場であることに変わりありません。学生無しの大学,学生無しの教員などありえませんから,大学の本質は学生であると言えます。キャンパスの活性化とは学生の活動が活性化することでなければならず,そのために何ができるかを考えなければなりません。必要なこととしては,キャンパスの居心地が良いこと,教員が魅力的であること,施設が充実していること,事務局が親切であること,などなど色々あり得ますが,OPEN AIR LABでは,それらを含め総じて大学が「面白そう」であることを目指してみたいと考えています。

※12 持続可能な地域社会への貢献

「自然との共生」の理念に基づく活動は,日本社会の問題解決に役立ち,持続可能な地域社会への貢献をなすと考えています。

日本では中山間地域の人口減少と一部大都市への人口集中が生じており,これは将来にわたり継続すると予測されています。このことは,地方の経済と文化の衰退と,ひいては日本全体の創造性の減少を経済と文化の両面でもたらす恐れがあります。

この問題の解決策は,多くの場合,雇用や産業など経済の観点から論じられます。確かに経済的基盤がなければ定住は難しいでしょう。しかし,定住者が増えなければ地域経済の活性化もまた難しいでしょう。これはジレンマであり,状況を変えるのは簡単ではありません。一つの突破口は,若い人が中山間地域に定住する理由が経済だけではないことです。精神的な幸福を求める人々にとって,経済は必ずしも最優先事項ではありません。最近,一部の山間過疎地域(中国山地,日高山地など)で,若い女性の定住人口が増加に転じる例がみられます。この背後には,若い人々の価値観の変化,すなわち物質的・経済的豊かさだけではなく,精神的平安や満足を重視する流れがあると考えられます。大都市にない中山間地域の最大の資源は「自然」であり,この自然の豊かさを活かした地域の活性化は,定住率の増加に一定の有効性を持つと期待されます。

ここで言う「自然」は,きれいな景色や空気だけでなく,他の動物や菌類や細菌まで含んだ全てです。そしてその動物には,野生動物だけでなく人と共に暮らすいわゆる家畜も含まれます。近年,哲学や人類学において,他の動物の存在が人に与える決定的影響が注目され始めています。そこには人類の歴史が人間だけの歴史ではないという認識があります。人類は,旧石器時代にイヌを家畜化して狩猟効率を高め,有蹄類を家畜化することで新石器革命の扉を開き,馬や牛の力で農業生産性を高めてきました。人類の歴史は,他の動物との歴史でもあります。進化的にも,人間は他の動物種が共在する環境に適応してきたのであり,私たちの心理的枠組みは,そのような文化的/生物学的歴史によって作られてきたのです。自然や人以外の動物の存在が,私たちの精神に不可欠な存在であったとしても不思議ではありません。

しかし,ここ200年の近代化の進行にともない,人が自然の中で他の動物種と交流できる環境は急速に狭められてきました。だとすれば,その喪失は深いところで我々の幸福を損なっている可能性があります。一部の若い人が中山間地域へ回帰しているのは,そこではこの失われた幸福が得られるからなのかもしれません。多様な生命に満ちた自然との共生を求め,人と自然のつながりを回復し,自然と共にある喜びを増幅させることは,都市にはない地域の魅力の発見や創出につながり,そこで暮らす幸福を育ててくれると期待されます。

OPEN AIR LAB ネットワークイメージ図

研究ブランディング事業イメージ図

※画像をクリックすると拡大版が表示されます。

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