TEIKAジャーナル

第40回「映画「海洋天堂」」(2011.7)

2011/07/29

 2010年6月18日、中国初の自閉症に関する映画「海洋天堂」が上映された。国際アクションスター、ジェット・リーがこれまでのヒーローから一変して、「少しでもわが子が幸せに暮らせるように」と願いながら、死んでも死にきれぬ切ない父親を見事に演じきった。中国では、この映画の上映によって、自閉症(中国では孤独症と称す)という障害名が2010年の流行語になるほど、大勢の人々に知れ渡った。
 1952年、アメリカの医者カナーによる世界初の自閉症報告から約10年、日本で自閉症の事例報告が、鷲見たえ子女史により発表された。それから約40年の1982年、中国における自閉症の事例報告は、陶国泰教授によりなされた。自閉症療育に関する研究は日中のスタートラインが遥かに離れていた。どころが、近年両国の動向を見ると、平行に進んでいるように見える。何故かというと、病因が明らかになっていない自閉症スペクトラムに対して、日本を含む先進国の探求に大きな進展がなかったからである。そういう状況の下、療育の重要性が極めて大きくなり、各国において療育方法試行錯誤の中、中国も昔の日本のように民間療育機関を中心に飛躍発展してきた。特に最近中国政府もようやく動き出し、自閉症を中心とする発達障害児・者に注目するようになった。特に法令等に関しては、日本では、2005年4月1「発達障害者支援法」を実施した。中国では、2006年に中国障害者連合会による自閉症は精神障害として認定された。それから、日本は2006年4月1日に実施された「障害者自立支援法」を2009年に改正し、「障害者基本法」の見直しに向ける2010年の提案など大きな変化をもたらした。中国も2008年に20年ぶりに「障害者保障法(残疾人保障法)」を修正した。
 近年、自閉症児療育で最も大切なのは理解であると認識されつつである。「自閉症療育を行う前にまず周囲からの理解を求めなければいけない」と恩師達がよくおっしゃっていた。2007年国連の提案による「世界自閉症啓発デー」(毎年4月2日)の設定も日中だけではなく、世界中の自閉症児・者に明かりを照らした。世界中の人々から理解を求めながら、認識を広めるという発想である。今回、日本での上映も多くの理解者・支援者がいたからこそ実現したものだと思われる。中国で「海洋天堂」の上映後、自閉症に対して「国民的な認識・理解が向上した」と映画のモデルの田恵萍が興奮気味に反響を教えてくれた。日本でも話題になり多くの人にみてもらいたい。中国版の「海洋天堂」を見た私は、日本版の上映を楽しみにしている。より多くの人々が自閉症児・者のために心が海洋のように広く受け止め、療育環境を天堂のように築いてあげてほしい。
 宣伝になりますが、ぜひ下記の映画館に足を運んで欲しい。観賞券料金1,400円の内、100円が日本発達障害のある人およびその家族のサポートに活用されます。東京では、夏にシネスイッチ銀座(03-3561-0707)にて上映される予定である。詳しくは下記のホーム―ページでご確認ください。
http://www.kaiyoutendo.com

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