TEIKAジャーナル

第44回「心からの語りかけと愛しみ」(2011.9)

2011/09/22

 もう、20年以上も前のことです。JR山手線の電車の中で、下掲のような広告を見かけました。私は「いい色を出せよとなだめながら…」と、目に入った紅花染めの職人さんたちの写真を添えた広告物を読み込んでいました。何度も読み返し、いつしか手帳を取り出してメモをしていたのです。

 いい色をだせよと
 なだめながら
 愛しみながら
 紅へ紅へと
 染めていくのです

      紅花の山形路

 紅花は、アザミに似たキク科の植物。名前からの想像では花の色は赤い色をしているように思いがちですが、咲きはじめは黄色で日がたつにつれて赤色を帯びてくるとか。早朝に一つ一つていねいに摘み取ったばかりの花びらは、黄色と赤色が混じっていて、洗う、絞る、乾燥させる、染める、ひたすなど、いくつもの工程を経て美しい赤へと染めあがっていくと言います。

 紅花染めの職人さんたちの染めの技術を超えた深い思いを感じます。まるで、子どもを育てるような思いを込めて染めていくのでしょう。「紅は生きもの」という考えが、紅花染めの修行と経験の中から、自然と出てくるのだと思います。「いい色を出せよ」との願いが、明確な紅の色として頭の中に描かれているからこそです。そして、その色を出すのに、「なだめながら」という援助が重要なのだと感じられます。紅花に話しかけても聞いてはくれません。紅が紅らしく自然に発現できるように、職人さんたちは具体的な営みで願いを伝え、しっかりと手を添え見守っていくのです。

 「いい色を出せよ」の願いは、子どもたちにどう育ってほしいかということにつながります。「なだめながら」「愛しみながら」の援助は、子どもたちを育てていく基本のように思います。押しつけではない、心からの語りかけをして、時にはちょっとした奥の手を出しながら、身体じゅうで心を伝えるのです。優しく、気長にということも大切になってきます。職人さんたちと教師、保護者がもち得なくてはならないものは同じなのです。

 夏も終わり、いよいよ肥えて成長にはずみをつける秋の到来です。夏の体験で創り上げた「いい色」をさらに磨きあげていく季節にしていきましょう。

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