TEIKAジャーナル

第56回「ことばに表情を」(2012.2)

2012/02/10

  朝、子どもがお父さんに「おはよう」といい、お父さんは子どもに「おはよう」という。 この子どもはどのような気持ちで挨拶をしたのでしょうか。逆に、お父さんはどのような気持ちで挨拶を返したのでしょうか。この文からだけでは判断できません。書き言葉の場合には、「明るい声でおはよう」「いつものように元気な声でおはよう」など、修飾する言葉を加えることによって、文に表情や感情をもたせることができます。表情のない文は、読み手の解釈や感じ方に任されてしまいます。その結果、書き手の意図しないような感じ方を読み手にされてしまう恐れがあります。そのために、簡潔な言葉で文に表情を付け加えることが必要になります。携帯電話でメールを送るときに、絵文字を使うことがありますが、これも表情が伝わりにくい文に表情をつける一つの方法かもしれません。

  では話し言葉はどうでしょう。会話をしているときのように、話し手と聞き手が相対しているときは、話し手の顔の表情や身振り手振りなど言葉によらない方法で感情を伝えることができます。また、語調でも伝えることができます。電話のように直接相対しないときでも、語調で感情を伝えることができます。このように話し言葉は書き言葉に比べて、簡単に言葉に表情を付け加えることができます。しかし、一度発せられた言葉は取り消すことができないということを意識することも大変重要です。高校で教鞭をとっていた時に、タバコの臭いのする生徒がいました。この生徒に対してどのように話しかければよいでしょうか。「君、タバコ吸っているね」と言えばよいか、「タバコの臭いがするけど、どうして?」と問いかけるか、教師の発する言葉一つでその後の生徒の対応も異なったものになります。

  普段何気なく使っている言葉ですが、このように、相手にどのように伝わっているかを考えると、書き言葉も話し言葉ももっと大事に使う必要がありそうです。気持ちを伝える重要な道具である言葉は大切にし、誤解を生まないコミュニケーションを心がけたいものです。

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