第6回 「努力と覚悟」 (2010.6)
2011/02/02
景気が悪い。世の中は不況である。不況になると企業は雇用を減らす。総務省統計局の速報値によると、4月の完全失業者数は356万人で18ヶ月連続の増加。完全失業率は5%を越えている。一方、就業者数は6269万人で、こちらはなんと27ヶ月連続の減少となった。
若者が世の中に希望や期待をもてなくなるのも無理はない。政治離れ、車離れ、活字離れ、仕事離れ―若者はどんどん社会参加から離れていく。学ばない子どもたち、働かない若者たちを内田樹は「下流志向」と呼んだが、勤労意欲も学習意欲もないニート(NEET=Not in Employment, Education or Training)が50万人を越えたという。せっかく就職しても、新卒大学生は3年以内に約3割が辞めるというデータもある。
しかし考えてみれば、不況の時代は今まで何度もあったのである。今このような若者が増えたのは単に世の中が悪いからなのだろうか、と疑問に思う。
仕事とは本来厳しいものである。夢や願望だけで仕事ができると思ったら大間違いだ。命を懸けるといえば大袈裟に聞こえるかもしれないが、少なくともある程度の覚悟は必要だろう。楽しそうに見える仕事、華やかに見える仕事、素敵に見える仕事の背後には想像を絶する努力や覚悟がある。
江戸時代の話である。職人は腕を磨くために諸国を巡った。師と仰ぐ名人の門下に入り修行をする。そのためには試験を受けなければならない。たとえば、刃物一丁で竹を割り、薄く削ぐことが求められる。削いだ竹を自分の首に回し、左右の端を持ってしごく。布紐のごとくに滑らかでなくてはならず、折れるようでは問題外。折れなくとも削ぎが粗ければササクレが首に刺さり、一命を失うことにもなりかねない。まさに命懸けの試験である。職人の仕事の背後には、竹を削るという単純な作業を来る日も来る日も繰りかえす努力があった。
先週聞いた話である。国際人道支援NGOであるPWJ(ピースウィンズ・ジャパン)は、世界中の紛争、災害、貧困地域に赴いて支援活動をする。世界的に高い評価を得ているNGOだ。その代表である大西健丞から高速道路を走る車中で聞いた話だが、イラクで移動するときにも荒地を高速なみの、いやそれ以上のスピードで走ったという。デコボコの道、ギャップにタイヤを取られ転覆すると命を奪われかねない。どうしてそんな無謀なことをするのか。大西は話を続ける。スナイパーがいるからだと。
交通事故で死ぬかスナイパーに撃たれて死ぬか。いくら自分で選んだ仕事とはいえ、それほどの覚悟が求められようとは。
「天職」という言葉を最近聞かない。人生を懸けてする仕事のことである。江戸時代の職人にしても大西にしても、凄まじい努力と覚悟があって自分の仕事を全うしている。まさに自分の仕事を天職と心得て励んでいるのである。自分が人生を懸けてする仕事、天職を見つける努力が今の若者に失われているのではないだろうか。