第25回 「いちばん古い思い出は?」(2011.1)
2011/03/16
先日のことです。雑談中に、現在高校生のお子さんがいらっしゃるR先生が「うちの子、小さい頃に湯船でウンチをしてしまった時のことが人生で一番古い記憶なんですって。」と面白そうに教えてくださいました。R先生自身はそのことについての記憶はないそうですが、お子さんは、お湯にプカプカ浮いたウンチの様子(!)や慌てふためくパパ、そして平然と湯船のウンチをすくったママ(R先生)のことも覚えているのだとか。
さて、みなさんのもっとも古い記憶は何でしょうか。そしてそれはいつ頃のことでしょうか。
たいていの人にとって、一番昔の記憶は3、4歳前後です。三島由紀夫は『仮面の告白』の中で自分が産湯につかった時の記憶について記していますが、そうした例は稀で、赤ちゃんの頃のことは思い出せないのがふつうです。こうした現象は"幼児期健忘"とよばれています。なぜこうした現象が起こるのかについては、昔から様々な議論がなされてきました。古いところでは、フロイトが、実は幼児期以前の記憶はちゃんと残っているけれど無意識に抑圧されていて思い出せないと説明しています。その他、幼児期は脳内で記憶を司る海馬がまだ十分に発達していないからであるとか、赤ちゃんは経験を言語化して記憶することができないからであるとか、あるいは自己概念が発達していないからといった説明もあります。これらの他にも諸説ありますが、幼児期健忘のはっきりとしたメカニズムは未だ解明されていません。
誰もが必ず経験してきたはずの赤ちゃん時代。それにもかかわらず、ほとんどの人がその時のことを忘れてしまっているというのは不思議ですね。