TEIKAジャーナル

第62回「春を待つ日の贈り物」(2012.4)

2012/04/06

すごい、とてもすばらしい音楽でした。ああ、夢を見ているんだなというほど、すばらしいえんそうでした。・・・バイオリンとピアノを、あんなふうに使ったえんそうができるなんて信じられなかったです。(後略)


  春の訪れを待つある日、東京には強い寒気がおそってきました。その日行われた体育館でのコンサート後、3年生のS君はあふれる感動をすぐさま上のような文章にまとめました。心から出てきた素直な感想です。

  世界を舞台に目覚ましいソリスト活動を続ける名バイオリニスト、和波孝よし先生と繊細な演奏で定評のある名ピアニスト土屋美寧子先生のデュオ。ニ部にわたって、温かみのある生の演奏を聴く機会を小学校でもつことができたのです。妥協のない、極めて集中力の強い演奏をする両先生。誠実な人柄と真摯な演奏態度。そして聴き手との一体感を大切にする姿勢が、子どもたちに深い感動を与えたようでした。

  「小学校って寒いんですね。私はいいのですが、バイオリンが風邪をひきそうなので、もしよければ、ストーブを貸していただけますか」。ユーモアを交えた和波先生の言葉に緊張気味の音楽科の先生もほっとするという一幕もありました。

演奏開始は午後1時からというのに、11時に来校されて、即リハーサル。一生に一度しか聴けないかもしれない子どもたちへの贈り物。そのための入念な準備を心がけておられたのです。全身全霊をこめて音楽を伝えようとする先生に触れ合う体験、そして感動を味わう喜びは、子どもたちのこれからの生き方に好影響を与えたに違いありません。

  「この演奏会で、こんなに静かに、そして微妙な音色の変化まで聴き分けようとしている皆さん。東京にこんなに落ち着いて音楽を聴ける学校があるということは、僕たちにとって救いです。皆さんは、自信をもっていいですよ」。音楽で人の心をなごませたり豊かにしたりする役割を自負する和波・土屋両先生からの素敵な贈り物でした。

  ウィーン少年合唱団の二度目の来日を記念して製作された音楽映画「いつか来た道」。女優山本富士子さんの弟役として、主役を務められた和波先生。そういえば、小学校4年生の時、郷里の町の映画館で涙してみた映画のことをふつふつと想い出したものでした。その先生とこうして会話を交え、春のような温かい音色と美しい和音を醸し出す生の名演に触れることができた感動と喜びの体験。それは私自身の教師としての生き方の転機にもなったと、今振り返っています。

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