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第131回「伝わる言葉で語ること」(2015.1)

准教授 神谷 純子

准教授	神谷 純子

  最近、いくつかの幼児教育施設を見学する機会に恵まれました。若い経営者の話を聞きながら感銘を受けたのは、施設の教育理念を語るその言葉でした。子どもの親御さんは、年齢も学歴も出身も様々です。大学のテキストにあるような小難しい理念の語り方をしても伝わらない。経営に携わる側は背景にしっかりした理念を持ちつつ、それを語る言葉は相手に伝わるものを選ぶ。本当にシンプルな、しかしどんな教育をめざしているのかが具体的にイメージできる言葉がならぶパンフレットを見ながら、教育に向かう自分自身の姿勢をふり返っていました。

  しばらく学校現場で仕事をして大学院に戻ったばかりの頃、講義の内容がほとんど理解できませんでした。外国の大学院に進学したわけではありません。日本で、日本語で講義を受けているにもかかわらず、その内容がよくわからないのです。そのうち、使われている言葉を知らないから理解できないようだと考えたわたしは、よく使われるけれどなじみのない言葉の意味をたずねるようになりました。本当に基本的な用語すら知らなかったわたしの質問に、指導教官は半ばあきれて「きみの質問は素朴でいいね」とちょっと皮肉まじりに言ったものでした。

  今のわたしの研究の土台となった院の講義は、単位は取得できていましたが3回履修しました。そのうち、わたしにとって意味を持たなかった小難しい言葉が、あるイメージを持ちはじめ、目の前にわたしの知らなかった世界が立ち現れました。新しく学んだ言葉が、わたしに新しいものの見方、考え方を与えてくれたのです。

  言葉には、わたしたちに新しい世界を拓いてくれる力があります。学生の皆さんには、ぜひ自分の力で言葉を獲得し、世界を切り拓く経験をしてほしいと思います。言葉が拓く新しい世界を自らの目で見て、教育を受ける意味を実感した教育者は、きっとその経験を子どもたちにも伝えてくれるでしょう。わたしの仕事は、言葉を学ぶことの意味を、伝わる言葉で語ることです。たどり着けるかわからない遥か彼方にある、わたしのめざす場所です。

 



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