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第146回「しあわせにんじん」(2015.9)

講師 富岡 麻由子

講師 富岡 麻由子

  保育園の玄関を入り、子どもたちのいる保育室の方に歩いて行くと、廊下の途中にその日子どもたちが食べた給食が展示してあります。乳児の離乳食、幼児食、おやつ、補食などが置いてあり、子どもと迎えに来た保護者が、展示ケースの前で話をしている光景をよく目にします。給食を指差しながら、おやつの手作りパンがおいしかったこと、栄養士の先生が説明してくれたことを教えてくれる子どももいます。今日はお魚だったの、食べた?…少し食べれた!といった親子の会話があります。子どもの給食のときの様子を想像する楽しさもあり、また、子どもが食べやすいように工夫された給食は、保護者の調理の参考にもなります。

  私の子どもの通う保育園に展示された給食には、おかずの一品のうえに、型で抜いた茹でたにんじんの薄切りがひとつのっています。飛行機、魚、花、かたちが毎日変わります。これは「しあわせにんじん」と呼ばれています。

  来週から、しあわせにんじんが始まります、と先生から保護者会で話があり、はて?と思いました。聞くと、順番に毎日ひとりの子どもの給食に、型抜きされたにんじんが置かれるということでした。それからしばらくして、「きょうのしあわせにんじん ○○さん」と、ケースの横に置いてある人形が、小さい看板を毎日出すようになりました。

  子どもたちにとって、しあわせにんじんは特別です。保育園で毎日たったひとりだけ、このしあわせにんじんを食べることができるのです。2歳くらいになると、クラスの子がかわいい形のにんじんを食べているのを見て、自分ももうすぐかな、まだかな、食べたいな!と楽しみが膨らみます。しあわせにんじんの日は、にんじんが少し苦手な我が子も、嬉しくて味わって食べているようです。迎えに行くと、「今日はしあわせにんじんだった!」と教えてくれます。

  保育は集団生活です。そのなかに自分だけちょっと特別で、くすぐったいような、誇らしいような気持ちを感じられる日があることは、子どもにとってとてもうれしいことだと思います。それがみんなに回ってきて、その気持ちを友達と共有できることも、自分の番を楽しみにすることも、小さな幸せです。しあわせにんじんは、ささやかですが、もらった子どもだけでなく周りにも幸せをくれるものでした。私も、次はいつかな、と毎回楽しみにしています。



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