TEIKAジャーナル

第156回「専門外のしったかぶりにご用心」(2016.2)

2016/02/29

 


  ホイクエンオチタ、ニホンシネとか、ベビーカーで国会を包囲するとか、世の中不穏なのか、前進しているのか。ともあれ人間は自分の置かれた立場から考えがちなもの。私の周囲はすっかりこどもが大きくなりはじめ、どちらかというと学生の就職を考えるため、この空前の保育士不足は、バブル期以来の保育士就職薔薇色期…ないしは、処遇改善のチャンスにも映ったりもするわけで…また、あちこちで、意見を求められる機会が増え、保育業界や子育て中の方以外にも、一緒に考えていただけるのもありがたく…しかしながら、いつも以上に急にあちこちで訊かれると少し疲れたりもする。

 

  疲れたら何をするっていったら、川にいくとか、美しい建物を見に行くとかあるのだけれど、そんなにまとまって休みことはできないときは読書。最近はちょっと休みたいときに、読むことにしている本がある。それは小川洋子先生の小説。小川洋子先生といえば『博士の愛した数式』が有名だけれど、わたしの一番のお気に入りは『象を抱いて海を泳ぐ』だ。感受性の高い、チェスの孤高の天才を描いたこの作品は、ニーズのある子どもたちの豊かな生活と支援に関ってきた人間にはたまらない一冊である。また、最近はエッセイ集『とにかく散歩いたしましょう』もお気に入り。小川先生のユニークな切り口、鋭い洞察、にもかかわらず深い慈愛に満ちた世界にうっとりとする。

  そしてマニアはすぐ、そういうお気に入りの作家の勧める本も読む。最近のそれは、なんといっても小川先生が『とにかく散歩いたしましょう』でお勧めになった、岩波科学ライブラリー『ハダカデバネズミ 女王・兵隊・ふとん係』(吉田茂人・岡ノ谷一夫著)。このハダカデバネズミというねずみはアフリカのケニアあたりにいるネズミで、名前のとおりはだかんぼうで、歯が大きい。ちょっとグロテスクなビジュアルともいえる。モグラのように地下トンネルの巣で生活している。蜂やアリのように女王デバネズミを中心にファミリーで生活をしているのだ。女王、王様(2~3匹)、兵隊、はたらきデバ(この中にはおふとん係までいる)などがいて、いろいろな役割を持って社会を構成している。その上、鳴き方がいくつもあり、女王がサボっているデバを威嚇するときはハアハアいうらしい。そして挨拶はピュイピュイという。などといって、何人かの知人にハダカデバネズミの魅力について語った。類は友を呼ぶか、けっこう興味を持つ知人が多い。ただし、最近大変申し訳ない事実に気がついた。挨拶はピュウピュウだった。ピュイピュイは…よりによって交尾の音声。やはりしったかぶりのにわかなんとかの話はある程度疑ってかかったほうがよいということかもしれない。本当にごめんなさい。

  そんなわけで専門外のまったく関係の無いハダカデバネズミに癒され、気分転換をし、また専門である、こどもの行動の問題や保育園の問題にとりつくわけである。

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