第78回 「ことば」 (2012.10)
2012/10/09
出張の機中では映画を観て寝ないことにしている。3本か4本は見る。内容は忘れてしまうが、時差ぼけ対処には良いと思っている。6月末の出張で観た映画に「ANONYMOUS(作者不詳)」というコロンビア映画の最新作があった。エリザベス1世の英国を舞台にした映画である。日本語に吹き替えられていたが本邦での公開はまだ決まっていないらしい。Was Shakespeare A Fraud? というサブタイトルが示すように、シェークスピアの名作は実はオックスフォード伯が書いていたという筋の物語なのだが、内容はともかく、エピローグに印象に残る言葉があったので急いで封筒の端に書き留めた。
「・・・朽ちることがない。それは石でできているからではなく、ことばでできているからである」。
石の文化を築いたヨーロッパならではの言葉と思う。朽ちることがないと思われる石の創造物であっても形あるものは何千年何万年も経てば崩れてゆく。物理的な実体を伴わないことば(すなわち言語)になったとき、それは永久に朽ちることがない。コンピュータ言語のような人工言語と違って、私たちが普段使っている自然言語にはその文化的背景や周りの状況により解釈に曖昧さが残る。しかし、そうであっても符号化したことばそのものは消えない。私たち教員はこの「ことば」を武器に仕事をしている。大切な武器は常に磨いて大事に扱わなければならない。
ことばといえば、なかのひろ氏の詩も印象に残っている。何年か前の朝日新聞に掲載された日野原重明さんのエッセイで引用されていて知った。
「ことばの消しゴム」
えんぴつで かいた字は
けしゴムで きえる
こくばんに かいた絵も
こくばんふきで けせる
口からでてしまった ことばは
けす けしゴムないんだね
とりだせないんだね
きみの耳にささった
ぼくのことば
わすれられないよ
ぼくのむねにささった
きみの目
ことばけす
けしゴム あったらなあ
私たちは教師を育てる教員である。その最も重要なツールがことば。重要なツールだからこそよく使い、良く磨き、大切にしたいと思う。