教育・研究

図書館だより 第10号 1999.10.15

[目次]


読 書 の 秋
読んでみよう! 文学賞受賞作品

 

 現在日本では、毎年400以上もの文学賞が受賞されています。最近では情報化時代を反映して、パソコン通信上で応募・選考が行われるユニークなものも登場してきました。 文学賞は新人発掘を目的とする新人賞と、既成作家の業績を顕彰する功労賞とに大別されます。歴史的には明治時代の新聞・雑誌が行った懸賞募集や文部省による文芸選奨にその源があり、明治45年3月、文部省から文芸功労者として、坪内逍遥に賞牌および賞金が授与されたのがわが国最初の文学賞といわれています。

文学賞受賞作品 現在行われている文学賞で新人賞の性質をもったものとして最も著名なのは「芥川賞」と「直木賞」です。これらの賞は昭和10年、芥川龍之介、直木三十五の名を記念して、文藝春秋により創設されました。芥川賞は純文学、直木賞は大衆文学を対象に、毎年1月と7月の年2回選考されます。第120回(平成10年)芥川賞は平野啓一郎の『日蝕』が受賞し、著者は若干23才の現役大学生ということでも話題になりました。また第117回(平成9年)直木賞には浅田次郎の『鉄道員(ぽっぽや)』が選ばれ、これは映画にもなり記憶に新しいところです。 功労賞的性格のものには、「毎日出版文化賞」(昭和22年創設)、「読売文学賞」(昭和24年創設)などの賞があります。

 また、山梨県の文学振興と日本の文化発展を目的として、平成4年に「やまなし文学賞」が制定されました。これは県と深いゆかりを持つ樋口一葉生誕120年を記念して創設されたもので、小説部門と研究・評論部門の二部門を設けています。 文学賞に輝く多数の作品の中から、本学で所蔵している作品をご紹介します。秋の夜長にページを開いてみてはいかがでしょうか。 

『家族シネマ』 柳 美里 講談社 913.6/Y96 (第116回芥川賞)
 主人公の妹が「家族」で映画に出演する話しを持ってきたことからこの小説は始まる。主人公の両親は20年前に離婚しており、現在家族はバラバラに暮らしている。そんな元家族が集まり「家族」を演じるが、ぎこちなく芝居の中でもうまくいかない。父親はなんとか映画を通じて崩壊した家族を立て直そうとするが... それぞれの今の家族の現状を織りまぜながら、小説は進行していく。 著者自身の体験を踏まえ「家族」とは何か冷静に見つめた作品である。

『水滴』 目取真 俊 文藝春秋 913.6/Me14 (第117回芥川賞)
 主人公、徳正の右足が突然腫れだし親指の先から水が漏れはじめる。やがて、夜になると負傷したぼろぼろの軍服を着た兵隊が現れ徳正の足から流れる水を飲んで壁の中に消えていく。兵隊達は、沖縄戦のあの夜、徳正が壕に置き去りにした負傷兵達だった。置き去りにされた戦友達が「水」を求めて徳正のベットに立つのである。 現実にはあり得ない話であるが、ともすれば風化しつつある戦争の悲惨さを思い出させてくれる。

『理由』 宮部 みゆき 朝日新聞社 913.6/Mi71 (第120回直木賞)
 東京都荒川区の超高層マンションの一室で殺人事件が起こった。被害者は4人で家族と思われた。しかし彼らは殺人現場となった部屋に住んでいるはずの家族ではなかった。彼らはなぜそこに居たのか、いつのまに入れ替わったのか。相次ぐ関係者の逃走。犯人は誰なのか?  著者が関係者へのインタビューをもとに事件を検証する形で真相が明らかにされていく。 バブル崩壊後の不況で"億ション"の価格が暴落。手が届くかもしれないと背伸びした夫婦の見栄と欲望が、何の面識もない幾つもの家族を巻き込んでいく社会派ミステリー。

『王妃の離婚』 佐藤 賢一 集英社 913.6/Sa85 (第121回直木賞)
 1498年フランスで国中の注目を集めた離婚裁判があった。原告はフランス王ルイ12世、被告は王妃ジャンヌ・ドゥ・フランス。ルイ12世の離婚申し立てに王妃は徹底抗戦の姿勢で臨むが、弁護側証人までがルイ側に寝返るなど、王妃は絶体絶命のピンチに立たされる。あまりの裁判の不正ぶりに怒りを感じた辣腕の弁護士フランソワは、王妃の弁護を引き受ける。さて、裁判の行方は如何に。 本当の正義や勇気とはどういうものか考えさせられる歴史小説。

『たびんちゅ』 大野 俊郎 山梨日日新聞社 913.6/O67 (第7回やまなし文学賞)
 南の離島出身の主人公の僕は、内地で就職し内地の女性と結婚した。そして新婚旅行を兼ねて祖母を島に送る旅に出た。島に着いた新婚の二人を親戚たちは歓待する。短い島での滞在中、祖父母の貧しい生活を見ると、僕は島を捨てたという自責の念にかられるのだった。が、島に執着する島人(しまんちゅ)の感情を掴みきれないでもいた。 故郷というものの有り難さと煩わしさに揺れる主人公の心理描写が巧みに描かれている作品である。

●その他の受賞作品

書 名著 者請求記号文学賞名
タイムスリップ・コンビナート 笙野頼子 913.6/Sh96 第111回(平成6年)芥川賞
日蝕 平野啓一郎 913.6/H66 第120回(平成10年)芥川賞
鉄道員(ぽっぽや) 浅田次郎 913.6/A81 第117回(平成9年)直木賞
柔らかな頬 桐野夏生 913.6/Ki54 第121回(平成11年)直木賞
少年H 妹尾河童 913.6/Se72/1,2 第51回(平成9年)毎日出版文化賞・特別賞
レディ・ジョーカー 高村薫 913.6/Ta45/1,2 第52回(平成10年)毎日出版文化賞
中勘助の恋 富岡多恵子 910.268/To56 第45回(平成5年)読売文学賞・評論伝記賞
ねじまき鳥クロニクル 村上春樹 913.6/Mu43/1~3 第47回(平成7年)読売文学賞・小説賞
群衆 松山巌 210.7/Ma91 第48回(平成8年)読売文学賞
対馬 村野温 913.6/Mu53 第5回(平成9年)やまなし文学賞
わたしの牧歌 田村加寿子 913.6/Ta82 第6回(平成10年)やまなし文学賞
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 村上春樹 913.6/Mu43/4 第21回(昭和60年)谷崎潤一郎賞
お供え 吉田知子 913.6/Y86 第19回(平成4年)川端康成文学賞
おろしや国酔夢譚 井上靖 913.6/I57 第1回(昭和44年)新潮日本文学大賞
物理学とは何だろうか 朝永振一郎 420/To62/1,2 第7回(昭和55年)大沸次郎賞
コリアン世界の旅 野村進 916/N95 第28回(平成9年)大宅壮一ノンフィクション賞

帝京大学薬学部図書館本当に青い となりの芝生
   !!図書館訪問記!!

第2回 帝京大学薬学部図書館

  神奈川県津久井郡相模湖町寸沢嵐1091-1
  TEL 0426-85-3710 FAX 0426-85-1643
  交通:JR中央本線「相模湖駅」下車。
      ・バス(帝京大学経由三ヶ木行)13分。
     「帝京大学前」バス停下車。徒歩3分。


 すぐに利用したい資料が本学の図書館には所蔵されていなかったことってありませんか? そんなときは他大学の図書館を利用することができます。利用の際には、通常は当館の発行する紹介状が必要となりますが、今回ご紹介する帝京大学薬学部図書館は本学から比較的近く、資料も豊富に揃っているうえ、本学の学生及び教職員であれば紹介状がなくても利用できます。(ただし学生証又は身分証明証を持参のこと。) 図書館の出入口は図書館棟の2階にあり、自動入退館システムになっています。利用者カードをカードリーダーに通すと出入口の自動ドアが開く仕組みです。これで入退館者のデータを管理しています。 カードがないと入館できませんので、学外者は入口左手にある事務室で入館の手続きをします。

 館内は静かで落ち着いた雰囲気です。まず最初に目に留まったのがカウンターの横に置かれた見慣れない装置。ABC(自動貸出返却装置)といい、利用者自身が図書の貸出や返却を行えるのだそうです。実際に操作の手順を見せていただきましたが、機械の指示に従って操作するだけで簡単に手続きが完了します。 この自動貸出返却装置や先にご紹介した自動入退館システムなどによって、平日17:00以降、土曜14:00以降の無人開館が実現化されています。 蔵書は当然のことながら、薬学関係の図書や雑誌が大変充実していますが、それだけでなく自然科学全般の図書や雑誌も豊富に揃い、蔵書数は図書約6万5000冊、製本雑誌約4万3000冊、合わせて約10万8000冊にもなります。雑誌のバックナンバーや二次資料の収集には、特に力を入れているそうです。

 また、本学の図書館にはないこんなコーナーが設けられています。授業で教科書として使われている図書のコーナー。教科書を忘れたときに助かる、うらやましい、と思われた方もいるかもしれませんが、このコーナーにある図書は禁帯出で一般貸出は行われていません。 薬学部の教員の方々の著作物を集めたコーナー。図書の背には著者である教員の方の名前の記されたラベルが貼られ、並べられています。このコーナーの図書は教員の方々からの寄贈によって収集されているそうです。 ユニークなのは高等学校の教科書を集めたコーナー。様々な使われ方があるようですが、薬学部の学生さん達は基礎を学び直すときなどに利用しているようです。 本学の学生及び教職員が利用できるのは主に館内での資料の閲覧になりますが、利用者登録を行えば図書の貸出もしてもらえます。他の利用者の方や図書館員の方の迷惑にならないようマナーを守って利用しましょう。

薬学部図書館の利用案内

【開館時間】【休館日】【貸出冊数・期間】
平日 9:00~20:00(学外者 9:00~17:00)
土曜 9:00~17:00(学外者 9:00~14:00)
*本学の学生・教職員は、学外者の扱いになります。
日曜日、祝祭日、創立記念日(6月29日) 、年末年始
*臨時に休館する場合があります。
図書:3冊・1週間

リレーエッセイ ふたこと・みこと

「趣味は散歩と読書」     

マネジメントシステム学科教授 藤澤 清作


 無趣味・無芸の人が「趣味は?」と聞かれた場合、表題のように答えることが多いという。私も趣味はと聞かれるとそう答える。実際、散歩はよくした。池波正太郎の小説を読んで、これから本所界隈の探索でもと思っていたら、足を悪くして、当分長距離の散歩は諦めざるを得ない。
 読書の方は小学生のころから随分読んだ。といっても、戦時中で本のない時代であったので、古い婦人雑誌の付録の恋愛小説を両親の目をかすめて、暗いところで読んだ。半年位で強度の近眼になってしまった。敗戦直後は地方都市では本屋の親父さんと仲良くして、1~2冊しか入荷しない本をうまく入手するのがコツであった。 大学では明治以降の経済史をテーマに選び、先生に教えられて、上野の図書館に通った。一枚一枚カードをめくりながら、やっと借り出してもなかなか目的にあった資料にあたらない。目的にあった資料にあたるとそれだけで勉強も進んだような気持ちになった。
 最近は大きな図書館は依然として多くの部分が閉架式ではあるが、端末を使用して検索が大分楽になっている。嬉しいのは我が大学図書館をはじめ開架式の図書館が増えたことである。背表紙を見、目次、奥付を見て本を借り出す。新しい本を買う場合にも、やはり実物を手にとって、それから買うというのが本を読む楽しみを倍加させてくれる。 インターネット時代に入り、印刷物としての本はなくなるという説もあるようだが、唯一の趣味となった印刷物としての本を読む楽しみはなくならないと信じている。




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markQ 読みたい雑誌があるのですが、図書館にあるかどうかわかりません。雑誌があるかどうか簡単に知る方法がありますか?

A OPACで検索できます。図書と同じようにして検索してください。詳細表示画面で所蔵巻号と年(いつからいつまでの分を所蔵しているか)が表示されます。また、冊子体の雑誌目録がカウンターに置いてあります。こちらも雑誌名で引くと所蔵巻号と年がわかります。ご利用ください。



お知らせ

★平成11年度後期より下記の通り、平日の開館時間を延長しました。(土曜は従来通りです。)
  大いに活用してください。
   平日 9:20~19:50
   土曜 9:20~12:30

★個人閲覧室が学部学生でも利用できるようになりました。
  利用する際は申込書を記入して、カウンターで手続きをしてください。個人閲覧室も禁煙、飲食禁止です。マナーを守って利用しましょう。